伝統的な梅農法の危機に、若い世代が独自の行動力で立ち向かう
太平洋と紀伊山地に囲まれた和歌山県日高郡みなべ町は、南高梅の生産量日本一を誇り、高級木炭ブランドである紀州備長炭の産地としても知られている。
養分に乏しい急斜面が多い土地で、かつては農業には不向きとされた地域だが、こうした土壌でも生育できる梅の栽培が江戸時代から奨励され、また備長炭の原木であるウバメガシの木々が山崩れを防ぐ役割を担い、この地は約400年にわたって高品質な梅と備長炭を生み出してきた。これらの梅と薪炭林が支える栽培の仕組みは、2014年に「みなべ・田辺の梅システム」として世界農業遺産に認定されている。
このみなべ町で、無添加の梅干しの生産と耕作放棄地の削減に取り組んでいるのが、株式会社うめひかりだ。
代表の山本さんは5代続く梅農家に生まれ、大学卒業後にUターンし、2019年にうめひかりを設立した。現在の活動に至るいきさつを、山本さんはこのように話す。
「うめひかりは南高梅を栽培し、塩と紫蘇だけで漬けて、"すっぱい・しょっぱい・あまくない"梅干しを製造する梅干し屋です。梅好きや日本の食文化を大切にする仲間が全国から集まり、今では社員の1/4が移住者になりました」
「じつは梅産業のピークはすでに過ぎていて、消費量は減少を続けています。こうした状況のもと、採算の合わない急斜面の梅畑が放棄され、そこに外来種のクビアカツヤカミキリが繁殖し、近隣の梅畑に被害を与えています。そこで、活動の初期段階から耕作放棄地の有効活用に取り組み、かつて自生していたウバメガシを植林して山に戻すという事業を始めました」と、山本さんは当時を振り返る。
しかしその事業を実現するには、いくつもの壁を乗り越える必要があったという。
「梅農家の閑散期を活用して、一年の半分は梅の栽培という農業を行い、もう半分はウバメガシの植林という林業を行う。このような働き方を実現できれば収入の向上にもつながります。といっても僕らには林業の経験が一切ありません。まずは地域の林業会社に協力していただき、研修に出向くことから始めました」と山本さん。
「林業のノウハウを得たことで耕作放棄地の課題解決に向けた筋道が立ち、これまでやってきた梅の有機栽培の知識も蓄積され、 "半農半林"という新たな仕組みを実現する準備は整いました。しかし、実行に必要な設備が僕らにはなかった。そこであと一歩の後押しを手にするために、みらい基金に応募させていただきました」と山本さんは経緯を説明する。
こうして地元の梅産業の存続をかけた、"半農半林"を実現するプロジェクトがスタートした。
"半農半林"という働き方を実現させる、さまざまな施策を展開
梅産業の課題解決に向けた、"半農半林"というワークスタイルの実現。これをどのように具現化するのか。うめひかりの梅田さんが、その具体的な施策を説明する。
「まず、ウバメガシの苗を育てる育苗施設を整備しました。1年で15,000本の植林を目標に、現在はウバメガシの種となるどんぐりを約2年分育てています。種が40個入るコンテナを何百個も並べて生育させるのですが、朝晩の水やりも非常に大変なので自動散水設備も導入しました」
「収穫した梅を加工する施設も確保しました。ハウスや漬け込み用のタンク、それらを設置する場所も用意しました。この施設で年間100トン規模の有機梅干しの生産を目指しています。有機栽培を行う畑自体も、耕作放棄地の中でも条件のいい場所を助成金で入手しました。山が近いので獣害対策用の柵も設置しています。有機梅は通常の2〜3倍の価格で販売できます。梅農家の収入をさらに上げることができます」と、有機栽培へのこだわりを梅田さんは話す。
そもそもなぜ梅農家に、"半農半林"の仕組みを取り入れようと考えたのか。そこには梅農家ならではの作業工程があるという。
「通常、梅農家は冬の間に梅干しの選別作業を行います。梅は階級が非常に細かく分かれているので、手作業で5〜6か月を費やします。うめひかりでは選別作業は別の加工チームが担い、梅農家はその期間でウバメガシの植林作業を行う体制にしています」と梅田さん。
「梅畑は急斜面が多く、植林する場所と似た環境なのです。苗を植えた後の草刈りも、梅農家なら手慣れています。耕作放棄地はもともと農地として整備されていたのでアクセスしやすく、"半農半林"は現実的な働き方として取り組めると考えています」と、"半農半林"と梅農家の相性のよさを梅田さんは説明する。
常識にとらわれないアイデアで、農業の未来を変えていく
梅農家であれば、ウバメガシの植林自体は難しくない。しかし、数万本規模の苗を育てるとなると、種の確保だけでも大変な労力となる。この課題を、うめひかりは斬新なアイデアで乗り越えた。
「現在、2年分として30,000本ほどの苗を育てていますが、ウバメガシの種となるどんぐりを30,000個以上を拾うのは容易ではありません。そんなとき、地域づくりをテーマに活動する日本ウェルビーイング推進協議会の島田さんと出会い、すごくいいアイデアを提案していただきました」と梅田さん。
それは、どんぐり拾いを競い合うイベントとして実施し、いろんな人たちに参加してもらおうというものだった。
「どんぐり拾いを競争にしてやるなら、リーグ戦みたいにしたらいいんじゃないか。『どんぐリーグ』って名前にして。そんな相談をしながらアイデアを出したのが始まりです」と一般社団法人日本ウェルビーイング推進協議会の代表理事である島田さんは、このときの提案を振り返る。
「なぜどんぐりを拾うのか? 拾ったどんぐりがどうなるのか? そこまで関われば、自分がこの土地や山、梅産業の一助になる実感が得られます。どんぐりという種は、文字通りこの土地の未来をつくる"種"なんだ。こういう感覚を共有することが、地域づくりにはすごく大事なんです」と、このイベントに込められた想いを島田さんは説明する。
さらに島田さんは、うめひかりの活動をこのように見つめている。
「うめひかりは、今起きている課題の本質をきちんと捉えながら、みなべ・田辺の梅システム全体を見渡して取り組んでいます。こうした視点と実践力を持つ組織は、ほかにはなかなかありません。うめひかりと連携して取り組むことで、"日本がみなべから変わっていく"という未来が本当に実現するのではないか――そんな感覚を、参加する人たちも実感できるはずです」
どんぐりを拾うという身近な体験が、地域の未来や産業の変革へとつながっていく。その確かな可能性が、島田さんの言葉には込められている。
一次産業のあり方を変える、影響力のある規模の企業を目指す
梅農家を取り巻く状況を打開するため、 "半農半林"というビジョンを掲げて活動を重ねてきたうめひかり。一つひとつのアイデアは形となり、耕作放棄地にも新しい生命が芽吹こうとしている。この先、うめひかりはどのような未来に向かうのか。代表の山本さんは、その姿をこう思い描いている。
「一次産業に興味のある若者が増えるように、会社の規模感を大きくしたいです。一次産業で1,000億円規模の企業をつくることを目標にしています。全国各地から集まった若いメンバーが成果を出し、その利益を未来に投資し続ける循環を生み出したい。このみなべ町で僕らの世代が中心となって、梅とウバメガシで今の状況を一新できるような事業に育てていきたいと考えています」
400年続く世界農業遺産にもなった仕組みと、若いエネルギーが生む斬新なアイデア。その融合が次世代への道しるべとなり、 みなべ町の梅産業に新たな未来をもたらしていく。

