里山の循環を取り戻すため、伐採木を有効利用する事業を推進
日本の森林面積の約54%は天然林。その約75%を占めるのは広葉樹林である。堅い広葉樹は燃料チップへの加工コストが高く、バイオマス燃料としてはほとんど利用されていない。しかし、広葉樹は針葉樹よりも再造林に必要な時間や手間が少ないため、適切に伐採すれば里山を低コストで維持できる。近年、この地域資源を有効活用しようという動きが始まっている。
一般社団法人 徳島地域エネルギーは、再生可能な資源を燃料とするバイオマスボイラーの普及を進めている団体である。高品質で低価格な燃料チップを大量生産し、熱利用施設や農業施設に導入することで、経済的に自立可能な木質燃料生産システムの構築に取り組んでいる。
代表理事の豊岡さんは、現在実施している兵庫県宝塚市での活動について、次のように話す。
「私たちはエネルギーを地域で開発し、地域の資源を地域で生かし、その利益を地域が受け取る"エネルギーの地産地消"を目指して事業を行っています。かつての里山では、伐採によって新芽が芽吹く"萌芽(ほうが)更新"という循環があり、苗を植えなくても自然に森が再生していました。しかし現在の里山の多くは、80年近く手入れされないまま放置され、循環が失われています。木は樹齢が高くなると萌芽能力が低下し、60年を超えると、伐採しても再生しにくくなってしまうのです」
木を適切に伐採し、資源として活用しながら、若い状態の森へと戻し続けることが、里山を維持していくうえで重要になるという。
「こうした背景から、兵庫県が『里山地域循環共生圏事業』を立ち上げ、その検討会議に私たちも参加することになりました。荒廃が進む山を地域資源として生かせないか、県有林も含めて誰かが管理を担う必要がある。そうした議論の中で、私たちがその役割を担わせてほしいと手を挙げ、宝塚市近郊の広葉樹をバイオマス燃料として活用する事業が始まったのです」と、豊岡さんはプロジェクトの始まりを説明する。
一方で、事業として成立させるためには、越えなければならない課題も大きかった。豊岡さんは、みらい基金に応募した動機を次のよう話す。
「エネルギー事業としては、ガスや石油などと比べて、競争力のある価格で安定的に供給できるかどうかが最大のポイントになります。バイオマスボイラーについては、これまでの事業で経験と実績を積み重ねてきましたが、森林機械や燃料を保管する設備の整備は、私たちにとってはゼロからのスタートでした。原料コストを抑えるための投資はハードルが高く、そこで、みらい基金の助成に応募することにしたのです」
かつて里山が担っていた役割を、現代版にアレンジして再構築
このプロジェクトでは、里山を整備する過程で生じる木材や、市内から出る剪定枝を、燃料チップなどに加工し、保管、出荷する一連の仕組みを構築している。
徳島地域エネルギー 統括マネージャーの髙田さんは、具体的な取り組みについて次のように話す。
「切り出してきた木に価値をつけるためには、効率よく薪や燃料チップをつくり、しっかり乾燥させてから出荷することが欠かせません。そこで宝塚事務所では、もともとあったビニールハウスの骨組みを活用し、約100トンのチップを保管できるストックヤードを整備しました。庫内には薪を保管する棚を設け、出入り口にはシャッターを設置しています。また、保管庫内での作業効率を高めるため、フォークリフトも導入しました」
こうした設備整備により、計画的に燃料チップを生産・保管し、加工後は1~2ヶ月ほど乾燥させたうえで、需要先へ安定的に供給する体制が整ったという。
「地元の造園組合と連携し、切り出した木を薪やチップに加工して販売することで、里山をきれいに整備しながら、地域の資源をエネルギーとして循環させることができます。ひと昔前の里山では、薪や木炭の原料となる木材を採取する薪炭林(しんたんりん)が管理されていました。そうした里山の役割を、現代の技術や仕組みに合わせて再構築し、もう一度普及させていきたいと考えています」
さらに髙田さんは、この取り組みを宝塚市にとどめず、県内各地へ広げていきたいと語る。「里山再生に取り組む地域は県内にも多くあります。安全で、なおかつ効率よく、切り出してきた木からエネルギーを生み出せる仕組みを、他の里山にも広めていきたいですね。宝塚市では、兵庫県環境部環境政策課とも連携し、里山の整備・再生と脱炭素、そしてバイオマスボイラーの県内普及に取り組んでいます」
自治体と一体となって、地域課題の解決に向けた体制をつくる
宝塚市で始動した"里山エネルギー林業"は、里山の整備と再生、脱炭素問題への対応に加え、バイオマス燃料の活用を通じた地域循環型の仕組みを目指し、兵庫県環境部環境政策課と連携して進められている。
兵庫県環境部環境政策課の井川さんは、徳島地域エネルギーが取り組む本事業について、次のように評価する。
「地域の課題を解決しながら、資金面でもきちんと循環させていくという、難しい活動に一緒に取り組んでもらっています。この取り組みでは、需要と供給のバランスを常に意識することが不可欠です。そのため、山での伐採から燃料チップの加工、乾燥、搬送、そして需要家へ届けるまでの流れを一体として捉え、一気通貫で循環させていく体制を確立することが重要だと考えています」
さらに、井川さんは、兵庫県という地域特性にも言及する。
「兵庫県は、北は日本海、南は瀬戸内を挟んで太平洋まで広がる、日本の縮図とも言える県です。この地域で、里山の資源をバイオマス燃料として活用するモデルが確立されれば、一つの成功事例として全国的に波及し、持続可能な取り組みとして広がっていくのではないかと期待しています」
"里山エネルギー林業"が広がれば、日本の風景は変わっていく
里山の広葉樹をバイオマス燃料として活用するという本プロジェクトは、伐採から燃料チップ加工、乾燥、出荷までの工程が少しずつ整い、エネルギー事業としての可能性が見え始めている。里山には新たな切り株から若芽が芽吹き、次の循環へと歩みを進めている。では、この先にどのような未来を描いているのか。徳島地域エネルギーの豊岡さんは、次のように語る。
「私たちだけで小さな規模で続けていくことよりも、同じ課題を抱えている他の市町村に真似してもらえることの方が重要だと思っています。多くの地域が、里山の荒廃や雇用の問題で悩んでいます。"里山エネルギー林業"として定着すれば、景観を守りながら、雇用も生み、地元にいながら誇りを持って働き、安定した暮らしを続けることができるはずです」
さらに、豊岡さんは、バイオマス事業ならではの特徴に触れ、未来への期待を語る。
「バイオマス燃料事業の良いところは、少しずつの人手がたくさん必要になるところなんです。木を切るところから、燃料チップに加工し、必要な場所へ届けるまで、多くの工程に人が関わる。つまり、あらゆる段階に可能性があるということです。こうした取り組みを行う自治体が何千と生まれたら、日本の風景は一気に変わるのではないか。そんな未来を夢見ています」
地元の里山を新たなエネルギー源として生かす"里山エネルギー林業"は、林業の枠にとどまらず、日本の一次産業や製造業、さらにはサービス業にまで、その恩恵を広げていく可能性を秘めている。各地での実践が重なった先に、日本の地域と風景の新しい姿が見えてきそうだ。

