被災者に雇用の場をつくりたいという想いからプロジェクトがスタート

東日本大震災。この未曾有の災害で被害を受けた被災地に「和ぐるみ」を使った支援・復興活動を続けている団体がある。それが岩手県盛岡市の一般財団法人SAVE IWATEだ。

活動が始まった経緯を、SAVE IWATEの理事長である寺井良夫さんはこう語る。
「震災が起きた日は、私は会社で仕事をしていました。翌日には仲間と相談して、物資支援や炊き出し、チャリティイベントなどの支援活動を始めました。その後、避難所から仮設住宅へと移るころになると、今度は被災者の失業問題が深刻化してきました。どうにかして被災者の方々に働く場をつくれないかと考え、地元の和ぐるみを活用したプロジェクトを始めたのです」

岩手県では昔から和ぐるみがよく食べられてきた。しかし食材として使えるようにするまでには非常に手間がかかるため、近年では忘れられた存在となっていた。
「被災地を中心に広く県内の方々に『和ぐるみを拾い集めてください。すべて買い取らせていただきます』と声をかけました。すると、300人ほどの方々からご連絡をいただいたのです」と寺井さん。
この取組みで集まった和ぐるみは、およそ23トン。多くの人々の想いがつまったこの和ぐるみをきっかけに、被災地復興を目標に掲げた「和ぐるみプロジェクト」がスタートした。
和菓子や食用オイル、炭など、和ぐるみを使って個性豊かな商品を開発

和ぐるみプロジェクトのメインの商品は、和ぐるみのむき実。このむき実を原材料にして、現在さまざまな商品が開発されている。

「お菓子では、和ぐるみを黒糖と甘味噌でコーティングした『くるびあんじぇ』が人気です。ソフトクリームは、和ぐるみのペーストを練り込み、砕いたむき実をトッピングしてお出ししています。最近では、地元の製菓メーカーの巖手屋(いわてや)さんがうちの和ぐるみでつくった『うす焼くるみごませんべい』の評判がいいですね」と、復興応援の店『りあすぱーく』の尾形美和子さんは声を弾ませる。

さらに和ぐるみは、むき実にする過程でさまざまな副産物が生まれる。今後はこれらをフルに活用した新たな商品づくりが検討されている。例えば、むき実を取った後の殻を炭焼きし、良質でかわいらしい形の炭をつくる。また、粉状となってしまったむき実を原料に食用オイルを搾油する。これらの商品開発にも、みらい基金の助成金が使われる予定だ。
かご細工の材料を継続的に確保するため、山ぶどうの植栽に取り組む

さらに和ぐるみプロジェクトでは、むき実だけではなく樹皮を使った工芸品も誕生している。それが、和ぐるみと山ぶどうの樹皮を材料とした「かご細工」だ。

「まずは皮を編み込んで、隙間がないように締め直します。そしてまわりを編んでいって手さげの形にしていきます。さらに持ち手とか芯とか強度が必要なところに、山ぶどうの皮を巻いていくんです」と、SAVE IWATEのくるみかご制作スタッフである湊雅義さんは説明する。

材料となる和ぐるみと山ぶどうの樹皮を安定確保する取組みも始まっている。和ぐるみは比較的栽培が容易なため、早い段階から植栽を行ってきた。山ぶどうは、岩手県内の森林に自生するものを林業関係者と連携しながら採取するとともに、樹皮の採取を目的とした本格的な栽培にも今後は取り組む予定だ。
プロジェクトの最大のネック、むき実作業の手間を軽減する機械をつくる

地元産の和ぐるみを活用し、スイーツや工芸品などのさまざまな加工品を生み出している本プロジェクト。しかしこの取組みには、乗り越えなければならない壁が存在している。和ぐるみのむき実にかかる労力を極力軽減するという問題だ。

その作業の難しさを、くるみ工房くる美人の代表である中原郁子さんはこう話す。
「すごく殻が硬いんですよ。金づちで割るんですが、その力加減が難しい。うまく割れたら大きく実が取れますが、崩れることが結構多いんです」

SAVE IWATE理事長の寺井さんも、むき実作業の重要性をこう語る。
「和ぐるみプロジェクトの最大のネックは価格なんです。海外産のものに比べると、やっぱり4、5倍の値段になってしまう。そうなる一番の要因がむき実作業の手間なんです」
コストのかかるむき実作業をなんとか効率化したい。そのために、殻を素早くきれいに割るための機械の開発を進めている。
「誰もが成し得なかった難しい機械の開発に挑戦しているところです。もう少し時間が必要かもしれませんが、近いうちに必ず実現すると期待しています」と、寺井さんは力強く語る。
震災以前に戻すのではなく、さらによりよいものをつくり上げていく

復興の願いを一粒のくるみに込めて活動する和ぐるみプロジェクト。挑戦し続ける想いを、寺井さんはこう語る。
「震災からの復興は東北全体で向かっていかなくてはなりません。和ぐるみはその復興の一助になると、私は信じています。復興といっても震災以前に戻すのではなく、さらによりよいものにつくり上げていく。それこそが復興だろうと思います。昔ながらの和ぐるみのよさをもう一度見つけ出し、同時に新しい使い方を開拓していく。ここを重視して、これからも活動に取り組んでいきます」
震災からの復興、そして創生へ。忘れられていた和ぐるみに新たな魅力を見出し、未来に進むための原動力にする取組みは、これからも東北に希望をもたらし続ける。