旧態依然の業界の体質が生む『情報の壁』に挑む

林業・木材産業のサプライチェーンでは、旧態依然とした紙やFAX等による慣習的な取引が主流で、製品供給も事業体間の対面による人的な調整業務によって行われてきた。加えて、製品毎に様々なステークホルダーが存在し、また個別のサプライチェーンの商流は固定化されがちであったこともあり、既存の取引先以外への供給が難しい、取引先の拡大がしにくいなどの問題が生じていた。

宮城十條林産株式会社代表取締役社長の亀山武弘は、本プロジェクトのきっかけについて次のように振り返る。

「課題の1つは『情報の壁』。山からお客さんに届くまでにいろんな業者があって、例えばトレーサビリティをやりたいという想いを持っていても上から下まで1回繋がってみないとわからないんですね。サプライチェーンを組んでみようということで始めた事業ということになります。情報の壁を取り除くためにはシステムが必要だろうと。」
宮城十條林産株式会社は、「儲かる持続的な林業・木材産業」への転換を図るためには、新たにDXモデルを構築する必要があると考え、課題解決に乗り出します。
サプライチェーン側のDX

DXで解決しようとした課題は、大きく分けると、トレーサビリティの機能と需給を調整する機能の2つ。
宮城十條林産株式会社 山林部/経営企画室 室長の梶原領太さんは、トレーサビリティの機能の必要性を語る。

「トレーサビリティの機能に関しては、1つは認証材、世界のスタンダードであるFSC認証。もう1つは国内の合法性の証明といわれるものです。これまでは任意だったので違法伐採なども国内でも少し出てきている。それに対して林野庁の方で義務化をしていこうということになったのですが、これが大量の書類を管理するとか、普通にやると結構大変なんです。それらを全部データで管理できるのでかなりコストは下がるんですね。」

さらに、サプライチェーンでの連携によって、100%信頼のおけるトレーサビリティの確立を目指している。
「ブロックチェーンの技術を使ってましてブロックチェーンの技術の1つの特徴は改ざんができない。先ほどのFSC認証とか合法性証明というのが全部最初の時点でつきますので
100%信じられるトレーサビリティができます。」
サプライチェーンとバリューチェーンとの連携による需給調整がもたらすコスト圧縮

宮城十條林産株式会社の梶原さんは、サプライチェーン側のトレーサビリティの確立によって、サプライチェーン側での在庫状況が明らかになり、需給の調整がしやすくなる効果があると話す。

「需給を調整する機能なんですけれども、需給調整機能で見れるものというのは各社の需要情報・供給情報・在庫情報です。在庫情報というのはトレーサビリティ機能で木材をやり取りしていくと必然的に各社在庫が出てきます」

宮城十條林産株式会社の梶原さんは、この在庫状況と、各社が情報を入れる需要と供給の情報によって、大きくコストが下がると説明する。
「木材って自給率がようやく4割近くまで来ましたが、やはり低いんですね。その大きな理由というのが情報の壁。海外の木材は大きなロット体で安定的に供給されますので、これに国産材が負けてるんですね。値段じゃないんです。安定供給で負けてるので 国産木材の自給率を上げていくという意味でも情報の壁というのをなくしていって、ちゃんと約束通り安定供給していきますよというのを見える状態にしていくというのがとても重要です」
仕組化に欠かせない公のサポート

宮城十條林産株式会社の梶原さんは、民間連携によって自由闊達に取り組んでいるものの、仕組化するという観点では、公の力が必要だと主張する。

本プロジェクトのメンバーでもある、宮城県林業技術総合センター 普及・研修部 技術次長の伊藤彦紀さんは、業界全体だけでなく、行政の森林行政を進めるにあたっても、今後必ず必要になる取り組みと評価してきた。
「行政の中でも林業の関係の事業と木材加工は別の分野になっておりまして、情報の壁が当然ある。情報が寸断されてるとマッチングが上手くいかないことがウッドショックのような状態になって、木材が高騰したとか一部高騰したとかあるんですけれど、そういったところへの対策も今回のシステムはできると思います」

「今まで慣習的にやっていた部分をデータ開示しながら見える化していくので、将来的には二酸化炭素の吸収とか、加工段階のエネルギーについても再生エネルギーをこのくらい使っていますよ、とかそういった環境貢献度も合わせて示せるようなシステムになってくるので、そういった活用についても検討していきたいと思っております」
とこの取り組みの可能性に期待を寄せる。
森林と都市をつなぐシステムが林業・木材産業の未来を創造していく

宮城十條林産株式会社の亀山さんは、このプロジェクトの未来をこのように語る。
「2050年には世界の人口が100億人に達すると言われています。我々は資源を取り扱う業種としてこれをずっと守りながら循環させる責任があると思いますので、トレーサビリティもしっかりする。そうすることで自然環境に寄与できると考えています。山っていうのは資源であると同時に、我々に酸素を供給している大切なものなので、環境も管理しないといけない。使った量というのは炭素の固定した量ですので炭素固定の見える化もできると思います。林業自体は昔からある第一次産業で良い産業だと思っています。林業自体を大きくしていきたいですね」