地元の山ぶどうと国産樽を使った葛巻オリジナルのワインづくりへ

岩手県北東部に位置する葛巻町は、標高400m〜1000m、平均気温9.2度という山間高冷地。この地には昔から比較的寒さに強い山ぶどうが自生していた。この山ぶどうを使い、独特の酸味を生かした良質なワインを造り続けているのが、株式会社岩手くずまきワインである。

今回のプロジェクトについて、株式会社岩手くずまきワイン 専務取締役の漆真下さんはこう話す。
「もともと葛巻町に自生していた山ぶどうで特産品ができないかと、1979年からワイン事業が始まりました。現在では、年間30万本ほどのワインを製造・販売しています。今回、ワイン事業の新たな展開として、国産広葉樹の樽で本当に純粋な日本独自のワインを造ってみようと考えたのです」

国産の樽を使った独自のワイン造り。そこに込められた想いを、製造部長の大久保さんはこう語る。
「海外の文化であるワインを日本で造るとき、やはりオリジナリティというものをしっかり考えました。ここには自生する山ぶどうがある。それを使うことが自分たちのオリジナリティになると思ったのです。でも一方で、熟成の工程では外国産の樽を使う。そこがどうしても引っかかる部分ではあったのです」
オリジナリティを重視するからこその、もどかしさ。これを払拭するオールジャパンのワイン造りが始まった。
国産材で樽をつくることは、山を育て、山を守ることにつながる

日本の樹木を使ったワイン樽の製造には、さまざまな波及効果も期待される。「ジャパニーズオーク」と呼ばれ、日本の主要な広葉樹として広く分布するミズナラ。このミズナラでワイン樽を製造する場合、樹齢100年以上のものが必要となる。これを継続して行うには、伐採後にドングリを植え、また100年後に伐採するというサイクルを維持しなければならない。つまり、国産樽を製造することは、山を育てることであり、100年単位で山を守っていくことにつながるのだ。

国産樽の開発は、研究機関をはじめさまざまな団体や会社と協力して行っている。
「ワイン樽に向いている樹木は何か。どのように製材すれば樽に適するのか。そういう研究を、山梨大学 ワイン科学研究センターの奥田先生と、国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所との連携によって進めています」と漆真下さん。

実際の製造を手がけるのは、国内唯一の樽メーカーである有明産業株式会社だ。
「素晴らしい職人技によって、本当に満足できるミズナラの樽に仕上げていただきました」と、漆真下さんはその品質の確かさを口にする。
念願のオールジャパンワイン「KuzumakiStory1」が誕生

地元の山ぶどうを使ってワインを造りたい。国産の樽で仕込んだ純粋な日本ワインを造りたい。さまざまな想いと情熱、そして培ってきた技がひとつになり、2022年12月、オールジャパンのプレミアムワイン「KuzumakiStory1」は誕生した。

「葛巻町の山ぶどうは結構酸度が高いんですが、調整などは一切せずにそのまま国産樽で発酵させました。そのため、酸味が力強く、色も濃い、本当にいいワインに仕上がったと思います。さらにミズナラ独特の香りが絶妙に調和して、非常に香り高い山ぶどうらしいワインになったと思います」
夢にまで見たオールジャパンワインの出来栄えを、大久保さんは自信をもってこう説明する。
ぶどう栽培、ワイン醸造、樽材がすべて同じ産地の日本ワインを、世界へ

国産の樽で仕込んだオールジャパンワイン。このワインがもつ可能性を、漆真下さんはこう語る。
「この取組みをきっかけに、その土地の広葉樹を使った樽によるワイン造りが広がれば、日本の森林産業にもかなり貢献できるのではと思っています。世界的な評価が高まれば、ワイン自体はもちろん、国産のワイン樽も輸出できるようになるかもしれない。そうなれば、さらに貢献度は上がっていくと考えています」

さらに大久保さんは、新しい国産広葉樹の樽に想いをはせる。
「今後は、ヤマザクラやクリなどの国産材を使った樽の製造にも取り組んでいきます。これらを試しながら山ぶどうとの相性を検証しつつ、国産樽の可能性をもっと追求していきたいと思います。国産樽で熟成させた日本ワイン。これで世界をあっと驚かせるワインができれば本望ですね」
造り手の想いとこだわりがつまった、念願の一本。すべてが国産という美しいストーリーを紡ぐこの日本ワインは、近い将来、世界中で愛されることを夢見ている。