竹林被害の解消に向け、伐採した竹を有効活用する方法を模索

過疎化や高齢化が深刻な国内林業。そのため地方の山林では整備が不十分な場所が多く、とくに近年は放置竹林、それにともなう有害鳥獣被害が大きな問題となっている。

岐阜県中南部で活動する可茂森林組合でも、こうした竹林被害に対する要望が高まっていた。同組合 参事の井戸さんはこう話す。
「可茂森林組合は、里山・農地・住宅地が密接につながる都市近郊の山林を管理する森林組合です。里山を整備してほしいという声は日頃から多く、行政からの要望もありましたので、組合としても里山整備に力を入れていく方針を打ち出しました。また放置竹林にイノシシが巣をつくり生息しているという話もよく聞きましたので、まずは竹林の整備に着手しました」

自治体である岐阜県美濃加茂市も、里山の竹林被害を問題視していた。美濃加茂市 農林課の三輪さんは里山整備の課題についてこのように話す。
「美濃加茂市は田畑と山が近く、イノシシなどの有害鳥獣による農作物への被害が甚大な地区となっています。これに対して市は『里山千年構想』という計画を立ち上げ、竹林などの里山の整備を推進しています。そして問題となったのが、整備によって生まれる竹の端材の使い道です。現地に集積するだけでは済まず、何か有効な活用法がないかと可茂森林組合さんに相談させていただいたのです」
里山整備の取組みは、端材として生じる竹をどう有効活用するかという新たな局面へと進んでいった。
雑草防止や獣害被害の軽減が期待できる土壌基盤材の開発へ

竹の端材の活用法としてまず取り組んだのが、土壌基盤材の開発だ。可茂森林組合 参事の井戸さんは、当時をこう振り返る。
「例えば、農業であれば草刈りは非常に手間がかかる作業です。草刈りが減れば農地をもっと守れるはず。そこで竹を粉砕した竹チップを草おさえとして使ったのが、土壌基盤材の始まりでした」
当初は竹チップをそのまま手で撒いていたという。しかし、それでは人の手で撒くという効率の悪さと、雨ですぐ流れてしまうという欠点があった。

そこで竹チップを環境に配慮したものと混ぜて固めて使うという方法が考えられた。
天龍株式会社は、可茂森林組合とともに土壌基盤材を開発してきた会社だ。技術開発次長の幡野さんは、土壌基盤材についてこのように説明する。
「当社は伐採木などの再生資源を有効活用する研究開発を行っていました。可茂森林組合さんから竹の活用法について相談があったとき、県内にある木質バイオマス発電所の焼却灰の処理に悩んでいたのです。これを有効活用したいと考えました」
研究を重ねることで、竹チップと木質バイオマス灰、そして酸化マグネシウムを混合させた、実用的な土壌基盤材が誕生した。

この土壌基盤材は、すべて自然由来の原料であるため散布地に悪影響を及ぼすことがなく、施工後は適度な硬さを維持するため雑草の発生を抑えることができる。さらに副次的な効果として、散布後はイノシシが近寄らないことも判明した。
「効果については今後もデータを収集し、研究機関と調査を進めていきます」と、幡野さんはその効果に期待をかける。
竹パウダーの使用によって伐採竹の活用の幅がさらに広がる

さらに、土壌基盤材を使いやすくするための改良が進められた。竹チップを使用した場合、用途は防草などに限られ、吹き付ける際に竹チップがホースに詰まりやすいといった問題があった。そこで、竹チップよりもさらに細かい粉末状の竹パウダーを使うことにした。これにより、ホース詰まりが抑えられ、より遠くまで吹き付けられることから用途の幅も広がった。さらに小型の吹付機で対応できるため、従来は入れなかった田畑のあぜ道などでも施工できるようになり、少人数で作業できることから施工コストも削減できるようになった。

今回、竹パウダーを製造する植繊機と小型吹付機は、みらい基金の助成金によって導入された。
「助成金がなければ、竹チップを竹パウダーにはできませんでしたし、小型の機械でどこでも施工できるようにはなりませんでした。みらい基金のおかげ活動の幅が広がったというのが現状です」と、可茂森林組合 参事の井戸さんは話す。

さらに竹パウダーは、土壌基盤材以外の活用法も生み出した。株式会社春見ライスでは、竹パウダーでつくった堆肥をペレット加工し、所有する田畑で堆肥として使用している。竹チップよりも微小な竹パウダーは、分解・発酵する時間が速く、乳酸菌による土壌の肥沃がより促進されるという。

「化学肥料をなるべく使わないというのが、私たちの農業のテーマのひとつなのです。化学肥料の代わりに自然の竹を活用することは、未来にもつながっていくのではと考えています」と、同社 代表取締役の晴見さんは話す。
賛同する企業とともに地域循環型事業のモデルケースを目指す

竹の端材を有効活用し、地域循環型の里山整備体制の実現に挑む可茂森林組合。その取組みは、業種を問わず多くの注目を集めている。株式会社熊谷組も、この活動に着目し、支援を続けている企業だ。
「弊社は『ひと・社会・自然が豊かであり続ける社会』を標榜していて、その中で『サーキュラーエコノミー(循環経済)』がキーワードになっていました。とくに竹の有効活用を模索していたときに、可茂森林組合さんの活動と巡り会えたのです」と、同社 新規事業開発本部の芥田さんはその経緯を語る。

「具体的には土壌基盤材の共同試験などをさせていただいて、現場的にもこういう製品はニーズが高いという感触を得ています。我々が目指すサーキュラーエコノミーの実現に、可茂森林組合さんの活動は非常にマッチすると感じていますので、今後も一緒に取り組んでいきたいと考えています」と、芥田さんは活動への手応えを口にする。
竹を活用した里山整備で、未来に向けた循環型社会の実現を

地域の資源や産業を最大限に活用し、持続可能な里山整備体制づくりに取り組む可茂森林組合。その活動が目指す未来を、同組合 参事の井戸さんはこう語る。
「『地域課題をどう解決するか』が地域に根ざした活動を行う森林組合の使命だと思っています。土壌基盤材の流通量を増やし、その収入を里山整備に還元する。そして地域の方々と一緒になって山林の整備に取り組み、里山整備の必要性を都市部の方々にも伝えることができれば、循環型社会の実現に近づくのではないかと思っています」
その土地にある資源を活用して、その土地の課題を解決していく。地域の特性に応じたサステナブルな里山整備が、多くの山林を抱える地方の未来に希望の光をもたらしていく。