地域の豊かな森を次世代に引き継いでいくためにプロジェクトがスタート

中勢森林組合は、三重県津市の森林全域を管轄する組合。その整備対象エリアは約46,200haと、津市の総面積の57%を占める。この緑豊かな土地で、間伐や下刈り、植林などの整備作業を通して森林保全と地域材の利用拡大に向けた活動に取り組んでいる。

しかしながら、国内林業の低迷に伴う後継者不足や従事者の高齢化といった問題はこの地域にも存在する。中勢森林組合 理事参事の山崎さんはこう話す。
「今の若い方のほとんどは、山に関心がありません。ただ、それを放っておくと山はどんどん悪くなる。少しでも良い形で次世代に引き継ぐためにはどうすればいいか、考える必要がありました」
木材の生産現場から流通工程までトータルにデジタル化するICTの導入へ

そこで取り組んだのは、ICTを活用した業務の効率化と省力化だ。林業のデジタル化について、同組合 生産課課長の松浦さんはこう語る。
「これまでは航空レーザーによる調査・解析を行っているだけで、ICT化といえる取組みはほとんどありませんでした。これを、森林資源調査工程から木材生産工程、木材流通工程まですべてのプロセスを通してデジタル化を図る必要があると考えたのです」

「例えば、流通の際の木材集積場である中間土場は、それぞれの組合が各々で設けていて一元管理されていないのが実状です。このような工程上の無駄を省くためにも、デジタル化によって情報を集約することは非常に重要だと考えています」と松浦さん。

林業には工程として、川上・川中・川下の3つの段階がある。今回のプロジェクトでは、川上では航空レーザー計測によって境界の明確化や森林資源情報の蓄積を効率的に行う。川中では、デジタル仮想土場に各森林組合の入出荷情報を集めて供給元に提供し、流通のスムーズ化や需給情報の把握を図る。こうした取組みの結果、木材の安定供給を川下で実現する。このような円滑な事業の流れをデジタル化によって実現しようというわけだ。

「川上から川下まで一本につなげたライン、いわゆるサプライチェーンの構築に取り組むモデルとして、今回のプロジェクトであるスマート林業"三重モデル"を実現できればと考えています」
同組合 課長補佐の井上さんは、プロジェクトの目指すべき方向を力強く語る。
タブレットによる情報共有で複雑な現場業務の効率化と省力化を進める

スマート林業への取組みは、着実に現実化へのステップを歩んでいる。プロジェクトに参画するアジア航測株式会社の北林さんはこう語る。
「今回のデジタル化は、弊社が行なっている航空レーザー計測による森林資源解析から始まり、今後どのように使っていくかを中勢森林組合さんと一緒に話し合いながら進めています」

現在、日々の業務に導入されているのが、木材生産工程の現場をサポートする各種アプリだ。
「『日報管理システム』は、もともと毎日の日報を紙で書いていたものをタブレットで入力することで一元管理できるようにしたものです。業務の進捗などが、いつでもどこでもすぐにチェックできるようになりました。また『現場管理システム』は、自分がどこにいるのかといった位置情報を現場で素早く確認できます。さらに航空レーザー計測のデータが入っているので、周辺の地形や森林資源の調査情報などもひと目でわかるようになっています」と北林さんは説明する。

今回のプロジェクトは、林業のデジタル化を推進する"三重モデル"として独自のシステム構築を目指している。
「中勢森林組合さんからは、まず三重県でこのシステムを広めていきたいという強い要望を受けています。県内の他の組合さんとも同じような取組みができればと考えています」と、北林さんはプロジェクトのさらなる進展を見すえながら、そう語る。
自治体との連携によって官民一体でプロジェクトの実現に向かう

スマート林業"三重モデル"の構築。地元林業の活性化にかける中勢森林組合の想いは、自治体にもしっかり届いている。令和3年には県の組織として、三重県スマート林業推進班が新設された。三重県農林水産部の伊川さんは、その経緯をこう語る。
「三重県の林業が抱えている問題に対し、スマート化がその課題解決のひとつになるという中勢森林組合さんの取組みは、とても素晴らしいものだと感じました。これは三重県としても、互いに情報共有しながら協力できるところは積極的に支援させていただこうと考えています。伊勢神宮や松坂牛といった観光のイメージが強い三重県ですが、林業も盛んだということをもっと全国の皆さんに知っていただきたいと思っています」
スマート林業"三重モデル"を全国に発信し、国内林業を再び盛り上げたい

林業界にかつての勢いを取り戻したいという想いで始まったプロジェクト、スマート林業"三重モデル"。この取組みの未来を、中勢森林組合 理事参事の山崎さんはこう語る。
「現在、みらい基金さんのサポートによってICT化を進めていますが、まずはスマート林業の構築に向けた具体的なシステムやノウハウを蓄積していきたいという思いがあります。そしてこの活動を三重県の中でしっかりと波及させ、近い将来には中部圏内、最終的には三重県から全国へと、このICT化の取組みを発信していきたいと思います。これによって国内の林業が少しでも元気になればうれしいですね」
世界有数の森林大国、日本。国内林業の活性化に貢献するため、スマート林業"三重モデル"はさらなる発展を目指し、進み続ける。