未利用・低利用資源を使い、林業と畜産業をつなぐ事業を立ち上げ
地方で課題となっている未利用・低利用資源の活用問題。ここ北海道もまた、膨大な森林面積を占める土地であるがゆえに、有効に利用されていない木材が大量に存在している。
北海道北見市に本社を置く株式会社エース・クリーンは、廃棄物処理業を中心とした事業を展開する会社だ。1976年の創業以来、地域の産業廃棄物を無害化する活動に取り組んできた。
「エース・クリーンは、廃棄物の収集・運搬から事業が始まったのですが、さまざまな廃棄物を処理する技術を追求する中で、蒸煮(じょうしゃ)という技術に出会いました。これを使って現在、木材を牛の飼料にする事業を展開しています」と語る、同社 代表取締役の中井さん。
「事業を立ち上げる際に重要なのは、やはり社会的意義だと思います。異業種である林業と畜産業を結びつける接着剤のような活動は社会貢献になると考え、新規事業として取り組むようにしたのです」
北海道の豊富な資源に目を向けたとき、まだまだ利用できるものがあるのではないかと感じていた中井さん。未利用・低利用資源の価値化を模索する過程で着目したのが、自社の廃棄物処理技術である蒸煮技術だった。こうして木材を飼料にすることで資源の有効利用を目指す、新たなプロジェクトがスタートした。
独自の「蒸煮」技術で、木から牛の飼料をつくる事業を開始
高温高圧の水蒸気によって有機物を加水分解するという蒸煮技術。この技術を使った木材から飼料をつくる取組みを、同社 取締役部長の稲川さんはこう説明する。
「最初は、廃棄物を加水分解処理するために導入した機械をもっと有効活用できないか、というところからこの事業は始まりました。木材から飼料をつくる蒸煮技術自体は、30年ほど前に開発されたのですが、やはり草とは違い木をエサにするには相当な苦労があったようです」
30年前の取組みでは製造コストが輸入飼料よりも高くなり、事業化に至らなかったという。現在は輸入飼料が高騰し、コスト面でも優位性があると判断した。
「目指しているのは、国産飼料の自給率向上です。今の価格だけでなく、10年、20年後を見すえて価格が安定しているであろう飼料に切り替えていく。そんな畜産農家さんの反応が多く見られますね」と、稲川さんは語る。
研究機関の調査で優れたポテンシャルを秘めていることが判明
蒸煮技術による飼料の開発は、産学官の連携によって進められている。帯広畜産大学 グローバルアグロメディシン研究センター 助教の福間さんは、この飼料の特性に注目している。
「この飼料が牛のお腹の中にいる微生物に与える影響について調べています。エース・クリーンさんの木質飼料が牛の疾病リスクを低減しているのではという話が農家から上がり、理由を知るために本学にお越しいただいたことが調査のきっかけです。蒸煮技術によって木材を構成する成分が分解するわけですが、これによりフェノール成分という化合物が多く含まれる状態になります。木材にもともと含まれる天然化合物もあります。これらの化合物が消化器官の調整機能に一役買っているのではないかと考えられます」
さらに福間さんは、その社会的意義にも期待を寄せる。
「国産飼料の自給率を高めながら、家畜の生産性も高める。まさに一石二鳥、三鳥のメリットをもつ事業になるのではと感じています」
北海道立総合研究機構 林産試験場の檜山さんも、この木質飼料のポテンシャルの高さに着目している。
「今までにない特性をたくさん備えた飼料だと感じています。まずは、牛の嗜好性が高いこと。そして、ある程度硬さのある繊維なので、牛が一生懸命噛み、反芻すること。さらに、シラカバ特有の成分と胃の中の微生物をよい状態にする成分が含まれていること。このようなメリットが挙げられます」
まずは、シラカバを材料にした木質飼料の製造技術を確立する。そしてこれをベースに日本各地の木材で製造できるようにし、全国的な普及につなげていく。そんな展開を檜山さんは思い描いている。
牛の状態がよくなったと畜産業の現場からも高評価の声が
この木材から生まれた飼料は、実際に畜産業に携わる人々にはどのように受け入れられているのだろうか。佐々木畜産株式会社の佐々木さんは、まさに自分たちが求めていた飼料だったと語る。
「飼料は輸入品に頼ることが多く、為替の変動や海上運賃の値上がりなどの影響を受けやすいのです。さらに品物が安定して届かないという課題もあって、安定供給されるというのが一番の目標でした。そこに合致するものはないかと探していたところ、出会ったのがこの木質飼料だったのです」
株式会社帯広有機の八太さんも、この木質飼料を高く評価している。
「これまでこういう飼料をほとんど使ったことがなかったので、最初は半信半疑でした。今使っている発酵飼料とも相性がいいと聞いたので試したところ、本当に牛がよく食べるようになったのです」
「さらに牛の状態もよくなりました。これはいいぞと思い、どんどん増やして使っているところです」
使ってみて実際にいいものだと感じたという八太さん。畜産業界にもっと広まっていけばいいのではと話す。
自治体からの支援で、地域経済に貢献する存在のひとつに
自治体も、木質飼料の開発には積極的に支援を行っている。北見市役所 元北見市商工観光部 工業推進課の松本さんは、木質飼料と関わってきた経緯をこう話す。
「北見市で以前、地元の強みを活かした地域経済を牽引するための基本計画をつくったのです。その際、エース・クリーンの中井社長から『木から飼料をつくる取組みを事業化する』という話を聞きまして。これは北見市でもサポートしますので、ぜひ一緒にやっていきましょうと、計画策定の段階から支援させていただいたのです」
「実際、それが計画通りに進み、さらに当初の計画を上回って大きくなっていくのを本当に実感しています。自治体としても応援のしがいがありますし、支援して本当によかったなと思っています」と、松本さんは笑顔を見せる。
林業と畜産業の未来に貢献するため、さらなる発展を目指す
地域の未利用・低利用資源を活用し、地域経済とも連携を図りながら、優れた特性を備えた木質飼料をつくる。エース・クリーンの稲川さんは、この活動の手応えをこう話す。
「うれしいことに、この木質飼料の使い勝手のよさやお得さというのが認知されてきて、非常に販売数が伸びています。しかし、当社には製造装置を増設する余力がなかったのです。そこでみらい基金さんに応募し、その助成金で機械を導入することができました」
これまで培ってきた廃棄物の処理技術で、これからの地域や社会に貢献できないかと考えてきたエース・クリーン 代表取締役の中井さん。未利用・低利用木材からつくった飼料の利用価値が広く認められつつある今、このプロジェクトの未来をこう語る。
「北見市で培った蒸煮技術でつくる木質飼料を、ここ北見市から全国へ、そして世界へと発信できたらうれしいです。木質飼料のよさも含めて、ここ北見市をもっとPRできたらと思っています」
地域の未利用・低利用資源を活用し、地域経済を活性化させる。北の大地で生まれた熱き情熱が、日本の林業と畜産業の未来を大きく変えていくかもしれない。