日本屈指の赤貝の名産地、失われゆくブランド力

奥羽山脈や阿武隈山地からの栄養素が注がれる閖上沖では、その恵まれた漁場環境を活かし古くから赤貝漁が地域の生業として営まれている。閖上漁港で水揚げされる赤貝は、色・艶・味・香り全てにおいて高く評価され、東京都中央卸売市場では日本一の高値で取引される程のブランド力を誇っていた。
しかしながら、近年はブランドを脅かす課題が後を絶たなかった。赤貝を出荷する際の等級分類の基準未整備による品質・取引価格のバラつきや、一部の漁業者による未熟な赤貝の水揚げや粗悪品出荷の横行等が原因で、閖上赤貝のブランド力が低迷。重ねて、乱獲や地球温暖化の影響で赤貝の漁獲量減少が進み、漁業者の収入低迷や水産加工業の衰退も深刻化していた。閖上地区は2011年の東日本大震災でも甚大な被害を受け、産業基盤やコミュニティの崩壊、地震・津波の影響で海中環境が変化したことによる赤貝の品質変化等にも長年悩まされた。さらに、2017年頃からは原因不明の赤貝の品質悪化が発生、身色の悪い赤貝の返品が相次ぎ、厳しい状況が続いた。

閖上赤貝のブランド再生に向けた取組みをスタート
閖上赤貝組合ではこれらの課題を解決するため、2010年から宮城大学、名取市水産問題対策協議会の産学官と連携し、閖上赤貝のブランド再生に向けたプロジェクトを始動。生産量の安定化を目的とした漁具の改良を始め、禁漁区域等を定めた新たなルールの策定や重量分別機導入による出荷基準の統一等、品質の維持や資源管理の取組みを行っていた。各取組みにおいて、一定の成果は上がっていたものの、赤貝の身色悪化の問題は調理者が貝を開くまで確認できないため、抜本的な解決には繋げられていなかった。

地域と連携、最新技術で赤貝漁業に革新を
当組合の出雲組合長はこう振り返る。「身色が悪いと問屋さんあたりからクレームが入る。色の悪いやつをどうにか殻を開けなくてもいいように見分けできないの?っていうことで西川先生に相談して。」――そこで、本事業で取り組んだのは、閖上赤貝の高品質管理システムの構築。近赤外線センサーや画像解析を活用することで、貝を開かずに身色等を識別する技術の開発に取り組んでいる。

さらに既存の重量分別装置と掛け合わせることで、身色が悪い・身が小さい等の不良赤貝を自動で選別できるシステムの構築を目指す。宮城大学の西川教授は「出荷する前に色を見分けて、悪いものをはじいて良いものだけを出せばもっとブランド力が上がるという話をして、その会話がヒントになった」と話す。

最新技術を活用し水揚げから等級規格分別までの自動化が実現できれば、漁業者の負担を軽減できるだけでなく、基準をクリアした閖上赤貝のみ出荷される仕組みができることでより高い品質が保証され、ブランド力回復・収益向上の契機にもなる。さらに、不良赤貝として識別されたものは再び海に戻し、身色が回復するまで成育させてから捕獲することができれば、海洋資源の保護にも繋がることが期待される。

さらに今後は、簡便な人工種苗生産技術の開発を行い、赤貝漁師自ら種苗の生産や放流を行う生産システム確立させることで、閖上赤貝の資源維持や漁獲量向上による安定した収入確保と漁業者自らが海洋資源の生産・管理・保護を行う持続性の高い漁業モデルの構築を目指す。
世界に通用する持続可能な漁業モデルを閖上から

閖上赤貝組合が見据える未来。それは、ここ閖上の海から水揚げされる肉厚で色鮮やかな日本一の赤貝を全国に届けること。そして、その豊かな海の恵を継続的にそして地域と密着しながら繋いでいくこと。西川教授は「閖上でこういった水産業のモデルづくりができれば、それを宮城県、あるいは東北地方、それから世界各国にそういうモデルを発展させていきたいと思っています。」と話す。多方面でサステナビリティの重要性が叫ばれる昨今、閖上で構築された漁業モデルが日本全国、世界各国に広がっていくのかもしれない。