石垣島のマグロをもっと広めたいという想いから合同会社を設立

日本有数のマグロの漁場である石垣島。ここで揚がる天然マグロは、その良質な身質で高く評価されながらも、出荷調整を行う施設がないことから、マグロを安定供給できないという課題を抱えていた。この状況を打破するために設立されたのが、地元の7人のマグロ漁師が中心となって立ち上げたヤエスイ合同会社だ。

当時の様子をメンバーの一人である萌丸の船長、高橋さんはこう語る。
「例えば、台風や冬場のシケの影響で、漁がない時とかは、島から魚がなくなるんですよね。魚料理の店はいっぱいあるのですが、魚が手に入らないのでみんな閉めてしまう。魚の鮮度を保持してストックする技術が全然ないんです。やっぱり生産者としては、魚を食べてもらって喜んでもらうのが一番うれしんですよね。だから、その喜びをもっと広げていきたい、ということをみんなで話して、この会社をつくることになりました」

ヤエスイ合同会社の代表を務める具志堅さんは、こう振り返る。
「石垣島のマグロは、身質がすごくよくて、旨味が逃げずに凝縮されている。だから食べ続けても飽きないし、胸焼けもしない。彼らのほうから、こういうプロジェクトをやりたいから一緒にやってくれんか?という話があって。必要とされるのであれば、がんばってみようと思ったのです」
漁獲から出荷調整までのプロセスに、冷蔵保管用の機器を導入

ヤエスイ合同会社は、みらい基金の助成金によって漁船、運送車、出荷調整施設の各工程での冷蔵・冷凍保管用の機器や設備を整備し、マグロに特化したコールドチェーンの確立に取り組んでいる。
まずは漁船の魚槽に、窒素ナノバブルを導入。漁獲後にエラと内臓を取り除いたマグロをこれに漬け込むことで、高鮮度・高品質な状態のまま水揚げすることが可能となった。

さらに、漁港から出荷調整施設への運送のために冷凍車を導入。途切れることなく鮮度を維持している。

そして出荷調整施設には、長期保管が可能な冷蔵庫と、マイナス60℃による高品質冷凍が可能な瞬間冷結機を設置。これらの機器や設備の導入によって、漁獲から出荷調整までの工程では完璧にマイナス1℃の状態が維持できる体制が整備された。
さらに、マグロはロイン(頭と尾を切り取り、左右に割り、腹と背に分けた4つ割りの状態)に加工。ロインでの輸送を可能とすることで、出荷コストの削減も図っている。
消費地の食品加工会社と連携し、加工品をスーパーに出荷

千葉県船橋市の新生水産株式会社。石垣島からマイナス1℃の状態で輸送されたマグロは、ここで刺身などの商品に加工され、量販店に出荷される。

ヤエスイ合同会社と連携し、ともに事業を行う新生水産株式会社 取締役副社長の佐々木さんはこう話す。
「石垣島ではめちゃくちゃきれいなマグロが水揚げされますので、こちらで何とか商品にできないかと考えていました。ただし、空輸なので陸送より高いマグロになってしまう。だったら私たちの工場でスライスして、刺身の状態で出荷すればどうだ?ということになったのです」

加工にあたっては、ひとつの問題があった。スライスする際、冷凍マグロは刃に張り付くことはないが、生のマグロは刃に張り付いて作業効率が低下する。この問題も、みらい基金の助成金で特殊な刃を備えたスライス機を導入することで解消された。
各工程での鮮度管理を徹底し、消費地で商品加工を行う「マイナス1℃のコールドチェーン」の整備を推し進めることで、最高のマグロを最高の状態で食卓に届けるという石垣島の漁師たちの夢は、着実に前進している。
「石垣マグロ」のブランド化で石垣島を盛り上げていく

ヤエスイ合同会社のメンバーは、本プロジェクトの未来について、それぞれこう語る。
「ちゃんと繋ぐのが一番大事かな。繋いでいけたらいいと思います」(ヤエスイ合同会社 代表 具志堅さん)
「地元の魅力の底上げができるんじゃないかと思っています」(ひの丸 船長 日野さん)
「マグロ船同士が集まって協力し合うことは、たぶん日本中探してもここだけなので。どうしても成功させなければと思っています」(覚佳丸 船長 嘉手刈さん)
「おいしいマグロはたくさんあるということを伝えていきたいです」(大喜丸 船長 宮里さん)
「量より質。みんなでそうやっていきたいという想いはありますね」(拓海丸 船長 金城さん)
「石垣のマグロが広まれば、お客さんも旅行に来る楽しみが増えると思います」(天心丸 船長 田中さん)
「石垣のマグロをみんなに知ってもらいたいという想いから始まったので、これからもそこは大事にしたいです」(萌丸 船長 高橋さん)
石垣島のおいしいマグロで、たくさんの人々を喜ばせたい。その想いは海を越え、全国へと広がりつつある。そしてこの活動は、マグロ業界のみならずその他の水産業、さらには飲食業や観光業など、島全体の活性化に繋がることが期待されている。消費地から遠く離れた生産地に利益を誘導するモデルケースとして、ヤエスイ合同会社の取組みはこれからも続いていく。