助成不採択を、前向きな活動に踏み出すきっかけに

ここ氷見市の宇波沖では海からの恩恵を授かり、定置網漁業を通して、収益の還元を行う村張定置という伝統が古より伝統文化として根付いていた。しかし、近年は、存続も危ぶまれる状況に。

宇波浦漁業組合 代表理事組合長の荻野洋一さんは、当時を振り返る。
「当初は潤沢に組合経営も回っていたが、過疎化、高齢化も進んで、なかなか漁師のなり手も居なくなって人材の確保が難しくなりまして、魚の方もだんだん獲れなくなってきたという問題もあって、収入がなかなか上がってこないので設備の更新ができないような状況がずっと続いていました」

氷見市からの提案を受けて農林水産業みらい基金の助成事業に応募するも、1年目は助成が認められなかった。しかしこのことが、より前向きな活動につながったと、宇波浦漁業組合の荻野さんは回顧します。

「村の役員たちとも話し合いまして、昔の村張定置の原点回帰だと。助成を受けることができれば、この宇波浦漁業組合も継続できるし、この地域もその分活性化できるんじゃないかということで助成の申請をしました。1年目は採択されませんで、もう一度事業計画を見直して2年目挑戦しましょうということで、更に活動の輪を広げて前向きな活動ということでどんどん進んでいきました」

不採択になっても、一歩を踏み出すことにした宇波浦漁業組合は、網の改修やサーモン養殖の実施、地域活性化イベント「こっちねまられ」などの取組みをスタート。そうした甲斐あって、応募2年目は採択されることとなった。
ギンザケ養殖と定置網漁業で地域に利益の還元をもたらし、失われつつある伝統に再び火を灯す

「みらい基金で導入したものについては3年前から行っているギンザケ養殖の生け簀を1基導入させていただきまして、今後もギンザケ養殖の方も続けていきたいなと考えています。あとは船、定置網も導入させていただきました。網の補修作業とか網の入れ替えスピードが軽減されています。今回船と網を助成いただいたことで地域の方で宇波浦漁業組合の存在価値が上がっていると思いますし漁獲量も上がってきました」と宇波浦漁業組合の荻野さんは手ごたえを口にする。

「地域の女性グループに魚を提供させていただいて、『こっちねまられ』という地域活性化の一貫の行事があるんですが、魚の販売や魚以外にも野菜の販売も積極的に行っています。加工品の方もいろいろ試行錯誤して宇波浦漁業組合も活性化する。女性グループも活性化する。村全体も活性化するということですごく良い流れはできてきていると思います」

宇波浦漁業組合の回り始めた地域の歯車。荻野さんはさらなる変化に大きな期待を込めている。
「乗組員の高齢化は進んでいるんですけど若い20代の船頭を抜擢しまして、周りもバックアップしながらその船頭を中心に活動しています。」
地域一丸の取組みが、街に生きがいを取り戻した

地域の期待を背負う、宇波浦漁業組合の若き船頭、曽場慎太郎さんは、地域一丸の取組みで、環境が変わったことを実感している一人だ。
「採択していただく前は、あまり活気はないけど伝統を受け継いでなんとかやってるなという空気を感じたのが正直な最初の印象でした。でもそこからみらい基金の助成をいただくにあたって地域ぐるみでいろんな活動をされているのを見たり自分でさせていただいたりしていく中で、村・町が一丸となりいろんな活動をしていけているので、そこはすごく変わったと思うところです」

「漁師という職業を、魚を獲るだけではなく地球環境・海の環境とかにも焦点を当てていきたい。これから漁業を続けていく上で一番若い世代が向き合っていかないといけないと思うので、海で働いている以上はこれから先も続けていける職業なのかというところも、今一度考え直して臨機応変に対応していく。本当に海に対してのプロになっていけたらと思います」