ウニの異常発生により海が砂漠化、海洋環境が危機的状態に
2011年3月11日、東日本大震災で大きな被害を受けた南三陸町では、津波の被害による人口減、労働人口減、高齢化が急速に進み地域の産業も甚大な影響を受けた。一時は回復傾向にあった南三陸町の漁業であったが、近年、藻場の海藻類を食べ尽くすキタムラサキウニの異常繁殖により「磯焼け」が深刻化し、かつて県内一を誇っていたアワビ等の貝類・魚類の漁獲量が大きく減少。砂漠化した海で異常繁殖したウニは身が痩せ細り商品化も困難であるため、漁業者が自主的に潜水専門業者に委託してウニを獲り海底で駆除・粉砕する作業を行ってきた。しかしながら、潜水専門業者の委託にかかるコストも大きく、ウニの駆除作業が漁業者に重い負担としてのしかかっていた。
地域の嫌われ者キタムラサキウニを収入源に
そこでケーエスフーズが漁協や地元大学・企業等と協力して取り組んだのが「南三陸海と陸の恵み活用プロジェクト」。漁協と連携し漁業者の潜水士資格の取得を支援する他、駆除の対象であったキタムラサキウニを陸上養殖し、ケーエスフーズの製品として販売する事業モデルを創り出す取り組みだ。
陸上養殖モデルの構築について、ケーエスフーズの西條社長はこう振り返る。「お金をかけて捨てているワカメや昆布の残渣を養殖のウニが食べてくれないかな?と思って、水産試験場の方や餌の研究をしている宮城大学、東北大学の先生と相談して、捨てているもので育てようということになった」。
食品加工の過程で残るワカメや昆布の残渣をウニの餌として活用することにより、飢餓状態のウニに残渣で栄養を与え身質の改善を図る持続的な養殖モデルを確立した。さらに、高品質なウニを育てるため同じ水槽の底で並行してナマコの飼育を実施。研究者・企業・漁業者が一体となりそれぞれの知識や経験を共有し合いながら陸上養殖モデルが構築されていった。 陸上養殖し十分に成長したウニは、加工食品の原料等として販売するようむき身をパウダー化した商品の開発が進んでいる。さらに、健康食品やサプリメント等に応用する計画も進行し、商品ラインナップや販路の拡大に向けて地域の様々な企業・組織が連携し活動を行っている。
新たな収益源と雇用の確保へ
町役場の佐藤さんはこう語る。「今回のウニ (陸上養殖)については画期的なプロジェクトかなと思いました。色々な人達の生業を生み出していく可能性も秘めていますので。(海の災害は)人の手で復活できるものだと確信しております」。
本プロジェクトをきっかけに、ウニの駆除、駆除したウニとナマコを一緒に育てる陸上養殖、養殖したウニとナマコそれぞれの商品化等を通じて、水産業者への新たな雇用が創出されている。さらに、漁業者への潜水士資格の取得支援等の人材育成にも力を入れ、次世代まで受け継ぐことができる持続的な事業モデルを目指した効果的な取り組みが多数行われている。新たな水産業の形で雇用を創出し地域全体の活性化に寄与する本プロジェクトは、南三陸町のみならず他の被災地でも活用できる事業モデルとなっていくことだろう。
豊かな海を次世代に残していくために
漁協の佐々木委員長は「南三陸の豊かな海を取り戻したい。この海を代々子孫に継いで行かなくてはいけない。我々にはそういう使命もあります」と意気込む。
未曽有の震災を乗り越えた南三陸町の海に現れた大きな試練。しかしながら、地域の力を結集し知恵と経験を掛け合わせることで課題解決の道筋を見つけ、着実に明るい未来への一歩を踏み出している。豊かな海の恵みが新たな命をもたらす未来を夢見て、南三陸町の挑戦はこれからも続いていく。