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水産業

漁業界が若返る道。

株式会社鹿渡島定置

株式会社鹿渡島定置の動画(2017年6月撮影)

人材育成・鮮度維持・6次産業化で躍進 七尾の若き漁師集団が拓くみらい

天然のいけす富山湾で漁業を営む平均年齢30代中盤の若き漁師集団、株式会社鹿渡島定置。同社はこれまでマニュアルを用いた社員教育や、「神経締め」をはじめとする鮮度維持力の向上、6次産業化への取り組みで注目を集めてきた。同社はさらなる若手漁師の定着と鮮度維持を目的として、魚類自動選別機と、雨や日差しを避ける選別所の屋根を設置。理想の定置網漁を追求し、足場を固めたその先に、鹿渡島ブランドの全国への一層の展開を見据えている。

助成対象事業の
評価ポイント

当社は、能登半島東岸の狭小な鹿渡島港を拠点に定置網漁を営む漁労会社です。定置網技術の独自のマニュアル化などを通じ、早くから若者の就漁、育成に力を入れてきました。若い社員のやる気を引き出し就漁希望者を惹きつける一方で、不利な立地条件のため漁港のインフラ環境が追い付かず、作業効率の悪さや魚価の低迷に悩みがありました。
このプロジェクトは、当社が優先してきた若者を惹きつける"流れ"に加え、必要不可欠なインフラを整えることで、若者の定住の促進と安定的な地域活性化に繋がることが期待されましたので、当基金から後押しを行っています。

オリジナルの教育マニュアルを用い、倍速で漁労長を育成

オリジナルの教育マニュアルを用い、倍速で漁労長を育成 イメージ

七尾湾と富山湾に面した七尾市の東端、崎山半島にある鹿渡島港では、早朝から若い漁師たちが定置網で揚げた魚を選別している。日本の漁業従事者の平均年齢は60歳以上だが、株式会社鹿渡島定置の社員の平均年齢は30代中盤。20代後半が最も多いという非常に珍しい組織だ。

「私は下っ端として働いていたころ、社長や上長に不満を感じることが多々ありました。『俺が社長になったら理不尽なことはやめよう。いつか自分の理想の定置網をつくるんだ』とずっと考えていて、独立後に実現したんです。だからウチは若い子がのびのび働いているのだと思います」と同社社長、酒井さんは話す。

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若者が定着する理由の一つには、オリジナルの育成マニュアルがある。マニュアルには漁の基本はもちろん、網を引きあげるロープの強度を瞬時に割り出す方法や、網の潮流抵抗の算出方法、ブリが大量に獲れたときの対処法など、仕事の進め方や、役立つ情報が事細かに書かれている。

「昔、『見て学べ』と言われたことを全部文書にしました。かつて漁労長になるまで15年から20年かかっていましたが、私はその半分の約8年で実現しました。でも、マニュアルがあれば、もっと短縮できると思ったんです」と酒井さん。その言葉通り、マニュアルで学んだ現漁労長の順毛さんは、漁業未経験から始めて2年半、25歳の若さで漁労長になった。

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「酒井社長から手渡された何種類もあるマニュアルを見て、勉強することがたくさんあるんだなぁって思いました。最初は出てくる言葉の意味すらわかりませんでしたが、社長の手ほどきもあり、早くから責任ある仕事を任せてもらえるようになりました」と順毛さんは振り返る。

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毎日の漁に加えて、魚の鮮度管理、直販などを担当している栗原さんは、「学生時代は物理学を専攻し、プラズマの研究をしていました。漁業の知識もないし、体力もありませんでしたが、文書を読むことは得意だったので、マニュアルには随分と助けられましたね」と実感を込めて話す。

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鮮度維持や付加価値向上のための投資を惜しまない

社員のやる気と自主性を引き出す工夫は、マニュアル以外にもたくさんある。代表的なのは「自己申告制」だ。漁の仕事に加え、朝ごはんの準備、魚の運搬機械の整備など、日常業務が53項目に分けられており、社員は希望する業務の項目にチェックを入れる。賞与額も社員が希望する金額とその根拠となる仕事の成果を酒井さんに申告し、話し合いのうえで決定するのだ。酒井さんが社員のやる気を引き出し、育てることにここまで力を入れているのはなぜか。

鮮度維持や付加価値向上のための投資を惜しまない イメージ

「昔、東京でヤンチャして七尾に逃げて来た子がいたんです。でもここで数カ月働くと、見違えるようにいい子になった。お盆休みに帰省させると、その晩にお母さんから電話があって、『素晴らしい青年になって帰ってきました。ありがとうございます』と涙声で感謝されました。それから人を育てることに、生きがいを感じているんです」

酒井さんは「人づくり」に加え、鮮度維持のための投資も惜しまない。獲れた魚の処理が鮮度に影響する。鮮度を保つためには氷が必須だが、真水だと塩分濃度が下がり、魚の色がくすんだり、目が濁ったりしてしまう。それを防ぐために同社では-2.5℃の海水シャーベットを使用。「魚の体の芯まで素早く冷やすから、時間が経っても新鮮で見た目も綺麗なんです」と酒井さん。

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順毛さん、栗原さんを中心に、魚の神経を潰すことで鮮度劣化を遅らせる「神経締め」にも取り組んでいる。魚の背骨に沿って細い針金を通すとき、失敗して針が身の中に入ると売り物にならない。神経締めをするのは高級魚が中心のため、これは痛手である。

「失敗したらもったいないからと言ってやらないところが多い。ウチは習熟するまで辛抱強く待つことができたから、新鮮な魚で差別化できるようになったのです」と酒井さん。神経締めの魚の評判は上々で、遠方の高級料理店などからも注文が入っている。

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漁獲物の6次産業化にも積極的だ。ふるさと納税の返礼品にも選ばれている「鹿渡島定置漁師の一夜干し」は、従業員の賄い用に干物をつくったのが発端だった。それが地元で人気となり、新しい収益の柱に育てるべく自社工場で加工するようになった。

「刺身で食べられるような新鮮な材料で干物を作っているところはほとんどない。だから味では負けません」と酒井さんは胸を張る。

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鹿渡島ブランドを全国に広げていきたい

鮮度維持の取り組みや、6次産業化は順調に進んでいるものの、同社に課題がまったくないわけではなかった。魚を傷める雨や雪、強い日差しの影響を受けながら、毎朝手作業で漁獲物を仕分けていたのである。人力に頼ると時間がかかるうえに選別のムラも出てしまう。小さなイカなど選り分ければお金になる漁獲物のロスもあった。そうした課題を解決するために、2017年の春にみらい基金の助成金で魚類自動選別機を導入し、選別場に屋根をつけた。

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「よその漁場で魚類自動選別機が導入されているところもあって、ウチよりも1.5倍から2倍くらい処理が速かったんです。羨ましいと思っていました」と順毛さんは笑顔を見せる。

「魚類自動選別機の導入後、イワシなどの青魚の鮮度が各段によくなっています。また作業時間が30分でも短縮されれば、ほかの仕事に時間を使えるし、労働環境がよくなります」と栗原さん。労働環境がより良くなることで、若い漁師が定着しやすくなるという期待もあるそうだ。

来期からは、いけす網による出荷調整も始める。定置網漁は自然が相手のため、魚がたくさん揚がることも、そうでないこともある。需要と供給で価格が決まるため、どんないいものでも大量に市場に入ると暴落してしまう。

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「大漁のときは漁獲物の半分をいけす網に入れて、半分だけ出荷するようにします。値段が安定するように出荷調整すれば収益は今よりも増えます」と酒井さん。

若者が定着する環境づくりと、漁獲物の鮮度維持と価値向上、6次産業化などさまざまな工夫を重ねている同社。安全・安心はもちろんのこと、より鮮度を維持した生魚と工夫を凝らした加工品を武器に、鹿渡島ブランドの全国への発信に向けた取り組みが進められている。

そんな同社が常に心がけているのが、地元七尾への貢献だ。地元のお祭りでは、神輿作りに協力し、地域の輪に加わり海岸清掃などの活動も積極的に行っている。

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「我々の生業(なりわい)は、この地域の恵まれた天然資源があるからこそ成り立つ、ということを忘れてはいけない」と酒井さん。

理想の定置網を作るという旗を立て、若者が希望を持って働ける漁業を実現してきた同社。全国から大いに注目を集める社員16名の小さな会社の挑戦は、能登半島のど真ん中、七尾を舞台にこれからも力強く展開されていくだろう。

助成先の組織概要

株式会社鹿渡島定置

石川県七尾市で代表・酒井秀信氏のもと、16名で定置網漁に従事している。社員の平均年齢は30代中盤。富山湾屈指の若き漁師集団として知られている。海氷シャーベットの採用や活絞め・神経抜きなどの技術を積極的に導入し、魚の鮮度管理を徹底。鵜浦漁港内に水産加工場を設立し、6次産業化を実現するなど付加価値向上に注力している。

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