豊富な水産資源を有効活用し、養殖業のさらなる進化を目指す
過疎化や高齢化が深刻な国内漁業。さらに生産コストの大半を占める飼料の高騰など、水産業を取り巻く環境は厳しい状態が続いている。
愛媛県の最南端に位置する愛南町は、南は黒潮が流れる太平洋、西は豊後水道という自然環境に恵まれた温暖な地域。ここを拠点とする愛南漁業協同組合は養殖業が盛んなことで知られ、真鯛、ブリ、カンパチなどの魚類のほか、牡蠣、真珠の貝類など、各種養殖業の一大産地となっている。
「愛南漁協は、"獲る漁業"から"作る漁業"へと変わっていって、今は養殖がメインという感じですね」そう話すのは、同組合 代表理事組合長の立花さん。
「現在、組合員は1100名ぐらい。仲買人さんや小売人さんなどの関係者を含めると2000人ぐらいになると思います。これは愛南町の人口の10%以上という数字です。愛南町で水産業が担っている責任や役割は、とても大きいと感じています」と語る立花さん。
愛南町の水産事業をさらに大きく成長させて、未来へとつなげていきたい。こうして豊富な水産資源を有効活用し、サステナブルな事業へと発展させるプロジェクトが、新たに始動した。
一次加工や大手との商品開発など、さまざまな販売施策を展開
愛南町の水産業は養殖業が中心で、とくに養殖真鯛は全国生産量の1/5を占めている。この真鯛を活用した新しい取組みを、愛南漁協は積極的に進めている。
「一般家庭で魚を丸々さばくという機会は、今はあまりないと思います。そんな背景から、魚をある程度さばいた状態で消費地に提供することが、我々産地にも求められてきました」と語るのは、同組合 販売促進部長の岡田さん。
「食品の加工を行うには、HACCP(ハサップ)という衛生管理の認証を受けなければならないのですが、このHACCPにいち早く対応することで、一次加工した真鯛を直接消費地に提供することが可能になりました」と岡田さん。
また、コロナ禍に直面した2020年には、意外な商品によってピンチをチャンスに変えた。それが「真鯛カツバーガー」だ。
「大手ハンバーガーチェーンさんと共同開発した数量限定商品です。約60万食が2週間で完売したんですよ」と、岡田さんは笑顔で振り返る。
"もったいない"を意識した地域資源循環への取組みにも挑戦
さらに環境問題に対する活動にも積極的に取り組んでいると、岡田さんは語る。
「じつは真鯛という魚は、頭ばっかり大きくて食べられる部分がそんなに多くないんです。だいたい65%は廃棄されていました。これはもったいないということで、アラや内臓といった食品として再利用できない部分を残渣(ざんさ)処理機に入れ、肥料に変えるようにしました」
完成した肥料は、地元の特産品である「愛南ゴールド」という柑橘の栽培などにも使ってもらう。そしてジュースなどに加工して残った皮は、また真鯛の餌になるという。水産業と農業が連携した見事な循環モデルが、ここでは成立している。
「ある時期から、"エシカル"とか"もったいない"とかの言葉を意識するようになり、地域で循環できる仕組みができないかと考えていました。肥料やこういう商品をうまくリンクさせながら、販売活動につなげていきたいという思いがあったのです」と岡田さんは、当時を回想する。
地元漁協の主導によるサーキュラーエコノミーの実現へ
自治体も、これらの取組みには高い関心を寄せている。愛南町水産課海業推進室 室長の浜辺さんは、愛南漁協の活動をこのように評する。
「愛南町は、町の生産額の約3割が水産関係の事業です。そこで生じる残渣を肥料にして山に返し、それが海に流れて再び魚の栄養源になる。まさにサーキュラーエコノミー(循環経済)を生み出し、サステナブルな社会の形成につながっていく事業だと思います」
「環境に配慮された魚が食卓に並ぶ。しかも、それを地域の漁協が主体となって進めているというのは、本当に責任のある素晴らしい活動だと思いますね」と、浜辺さんは語る。
グローバルに、サステナブルに、新しい養殖業のあり方を追求
地域経済や環境に配慮しながら、愛南の海で育まれた真鯛を広く発信していく。愛南漁業協同組合の岡田さんは、これからの取組みをこのように話す。
「今まで町外に保管せざるを得なかった商品を、今回みらい基金さんの助成金で新たに冷凍庫を導入したことで、町内で保管できるようになりました。海外に輸出する商品を日々ストックしながら、自分たちのタイミングで適切な量を出荷できるようにしています」
また、新たな環境に配慮した活動にも取り組んでいる。
「養殖の資材などを海面に浮かべるためのフロートですが、これを処理する機械を導入しました。だいたい年間8000本ほどが廃棄されるのですが、そのうち2000〜3000本ぐらいが再生処理できないまま生産者がゴミとして保管していたのです。また、劣化したフロートはマイクロプラスチック化して海洋汚染にもつながるということで、廃棄フロートを効率よく処理する機械を導入したというわけです」と、岡田さんは話す。
「まだ動き出していなかった事業がみらい基金さんの後押しで、ようやくスタートラインに着くことができたと思っています。地域のいろんな場所と協力して、シナジー効果を生み出しながら、愛南町全体で前に進んでいける事業にしたいと思っています」
自分たちが今後やろうとしている活動を思い浮かべながら、岡田さんは力強く語る。
BAP認証の取得によって、愛南の真鯛をグローバルな存在に
愛南町の豊かな水産資源を活用し、地域の産業をさらに活性化させる今回のプロジェクト。その未来を、愛南漁業協同組合の立花さんはこう話す。
「責任ある養殖水産物に関するグローバルな認証制度で『BAP認証』というものがあるのですが、愛南町の真鯛は、2023年に養殖生産として世界初のBAP認証を取得しました。こういう背景を土台にし、今後は世界に向けて愛南町の真鯛を発信していきたいと思います」
その土地ならではの自然の恵みを活用し、地域のさまざまな産業と連携しながら、グローバルな価値を育んでいく。愛南町から生まれたこのプロジェクトが、日本の地域産業の可能性を大きく広げていく。