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水産業

未来からやってきたアサリ。

福岡市漁業協同組合

福岡市漁業協同組合の動画(2017年8月撮影)

砂なしアサリには、ぷりぷりの身と、島の希望がつまっている

福岡市漁業協同組合が、アサリを卵から成貝まで砂を使わずに育てる「砂なしアサリ」の事業化をはじめた。この新しい取り組みへの注目度は高く、全国各地から問い合わせが相次いでいるという。今回の事業が、地域の漁師の収入を増やし、組織の若返りをすすめるきっかけとなり、さらには「アサリ養殖の博多湾モデル」として、漁村の活性化につながっていくことが期待されている。

助成対象事業の
評価ポイント

このプロジェクトは、博多湾に浮かぶ志賀島において、新たな養殖技術を駆使しながら、事業化(特産品化)による地域水産業の活性化や、担い手不足の解消に向けて取り組むものです。
行政や研究者と連携しながら研究を進めている新しい養殖技術(砂なしアサリの養殖)を活用しつつ、漁業者ひとりひとりでは大規模な設備投資は難しいことから、当組合が共通資産を準備し、新たに志賀島で就業したい人(個人)でも事業に参加できることを目指しています。
これにより、高齢化が進んでいる志賀島地域の雇用(新規就業者)の創出と、新しい特産品を生み出すことでの地域産業の活性化が期待されましたので、当基金から後押しを行っています。

口のなかで「ジャリッ」としないアサリ

福岡市にある志賀島(しかのしま)は教科書に載っている金印(漢委奴国王印)が出土した島。世界有数の良漁場といわれる玄界灘と博多湾に面し、「弘わかめ」などの良質なワカメの産地として有名で、タイやカワハギの水揚げも多い。福岡市漁業協同組合(以下、福岡市漁協)は福岡市から事業委託を受け、2015年度からこの地で「砂なしアサリ」の事業化に取り組んでいる。

口のなかで「ジャリッ」としないアサリ イメージ

「スーパーなんかに行くと砂抜きアサリっていうのがあるでしょう?あれは砂の中で育ったアサリだから、どんなに砂抜きしても口の中で『ジャリッ』とすることがある。でも私たちは、砂をまったく使わないで養殖するから、その心配がないんです」そう話すのは、二枚貝の養殖の研究者として、福岡市漁協に技術指導しているFUバイオカルチャー代表の藤芳さんだ。

研究者の間でもアサリは干潟で育つのが常識だった。「砂なしでアサリができるわけがない」という声をよそに、福岡市漁協は、砂のない環境でも、アサリを稚貝から成貝まで育てられることを確認した。アサリは育った干潟によって独特の風味が出ることがあるが、砂なしアサリは海水だけで育つので味にクセがなく、品質も安定しやすいという。

「砂なしアサリ」の事業化を下支えする福岡市が情報発信をおこない、まさに今、問い合わせが相次いでいるところだ。世界の食の専門家たちが認める香港のフレンチレストランからも引き合いがあるという。その店は、世界有数の漁場である博多湾で育った食材に関心が高く、砂なしアサリへの期待も大きいのだそうだ。

口のなかで「ジャリッ」としないアサリ イメージ

福岡市漁協弘支所長の松田さんは、「この地域では昭和40年くらいからワカメの養殖をしていますが、海の状況によってずいぶんと採れる量が左右される。新しく養殖できるものはないかとずっと探しておったんです」と話す。牡蠣の養殖で成功している唐泊支所に視察に行ったとき、市の養殖研究事業を支援していた藤芳さんと出会ったことがきっかけで、今回の取組みに発展したのだという。

アサリの養殖が地域活性につながる理由

志賀島近海で採れるワカメの量は、ピーク時の10分の1程度まで落ち込んでいる。年々漁師が減り、平均年齢は62歳まで上昇した。「このままじゃ10年先はほとんど漁師がいなくなります。でも、砂なしアサリの養殖が稼げる仕事になれば、後継ぎやIターン希望者が増えるかもしれない」と松田さんは話す。

藤芳さんは、「養殖というと、これまではマグロやタイなどの単価の高い魚ばかりだった。しかし、単価の低いアサリの養殖だってちゃんと稼げる仕事になります」と言う。砂がないアサリは砂抜きの手間がいらない。しかも、身入りがよく、ぷりぷりとして、旨味も強い。付加価値の高い国産アサリの需要は十分あると見込む。出荷が春期に限られるワカメと違い、年中出荷できるところも利点だ。

また、アサリは海水を飲んでプランクトンをこして体に取り込むのでエサがいらない。そのため、余ったエサで海を汚すこともない。それどころか、海水の浄化機能により、海水をきれいにしてくれる。海中に吊るした網カゴが小魚の隠れる場所になるなど、生態系がより豊かになる効果もあるという。海の環境を守りながら長く続けられるのが二枚貝の養殖の利点。牡蠣は100年以上、ホタテは70年以上という養殖の歴史がそれを物語っている。

砂なしアサリは、ある程度の大きさの稚貝になるまで陸上で育てたのち、網カゴに移し、海中に吊るす。網目が詰まって海水の通りが悪くなると発育に影響するため、定期的に網カゴに付着した藻などを洗い流す。現状、この作業は船の上で機械を使ってやるので漁師にしかできない。

アサリの養殖が地域活性につながる理由 イメージ

しかし、今後アサリの量が増えて、クレーンを搭載した大型船で網カゴを一気に集めて港に揚げてから洗うようになると、女性や年配者でも作業ができるようになる。このほか、アサリの仕分けなどの作業もあるため、漁村全体で広く雇用を生み出していくことができるのだ。

砂なしアサリを、漁村を元気にする宝にしていきたい

福岡市漁協では事業化を進めるにあたり、設備を用意する資金的余裕がなかった。松田さんは、「砂なしアサリの事業化は、自分たちの出資だけでは始められませんでした。なんとかならんかなと思って、いろいろ探していたんです」とみらい基金への応募のきっかけを明かす。

みらい基金に採択され、資金の目途がある程度つき、事業化に向けた漁協組合員による協力態勢も整った。しかし、砂なしアサリの養殖は研究の途上。現在は、福岡市の施設でつくった稚貝を譲ってもらい、そこから成貝まで育てている。稚貝から成貝への育成技術は確立しているが、産卵から稚貝まで育成する過程にはさらに高度な技術が必要。質の高い種苗を低コストで生み出せるかどうかが量産化のカギだ。

砂なしアサリを、漁村を元気にする宝にしていきたい イメージ

「どんなに失敗しても、できるまでやる」と松田さんと藤芳さんは口をそろえる。「もしも博多湾に貝を殺す赤潮プランクトンが出てきたら...とか心配しだしたらキリがないんです。でも、せっかく訪れたいい機会。なんとかして成功させたい」と、地元の漁師のまとめ役である弘支所運営委員会長の今泉さんも意気込みを語る。

成功までの道のりは平たんではないが、あと一歩というところまで来ている。「砂なしアサリは、当面は香港に販売することを決めていますけれど、私の目標はイタリアです。本場のボンゴレでウチのアサリを使ってもらうのが夢ですね」と松田さん。まだ量は少ないが、2017年秋頃に砂なしアサリが出荷される見込みだ。

砂なしアサリを、漁村を元気にする宝にしていきたい イメージ

「成功したら全国がこの養殖技術を欲しがるかもしれません。もしも『ウチの地域でもやりたい』と相談されたら、お手伝いしていきたいと思っています。」と藤芳さんは言う。「藤芳先生。うちの漁協が潤えば、きっとほかも潤うよ」と松田さんも心を重ねる。日本の歴史に刻まれる金印が見つかった志賀島では、日本の漁村を元気にする可能性を秘めた新しい宝物が、大切に、大切に、育てられていた。

助成先の組織概要

福岡市漁業協同組合

福岡県福岡市に本部を置く。風味豊かな「弘わかめ」「志賀島金印汐わかめ」や、ブランド牡蠣「唐泊恵比須かき」などが特産品。今回のプロジェクトは、志賀島に拠点を置く弘支所が中心となり、漁協組合員と一緒に取り組んでいる。

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