沖縄産コーヒーという夢に、地元スポーツクラブが挑む
赤道を中心に南北25度の間の地域。そのエリアは「コーヒーベルト」と呼ばれ、コーヒーの生産に適した土地として知られている。沖縄県もまた、わずか1度だけ外れるコーヒーベルトの北限近くの地であり、台風や塩害の影響で生産は難しいとされながらも、約40年前から本格的な国産コーヒーの生産栽培が始まっていた。
沖縄SV株式会社は、沖縄県全域を本拠地とするスポーツクラブ。「With the Community(地域と共に)」をビジョンに掲げ、サッカーのみならず多彩な活動によって地域創生の取組みを行っている。その一環として2017年から進めているのが、沖縄県で国産コーヒーの生産・販売を行う事業モデルを確立しようというプロジェクトだ。
コーヒーの産地化を目指し、スポーツの新たな可能性を示す
沖縄SVの代表は、元日本代表の髙原直泰さん。2015年に自ら設立し、現在はCEOとしてクラブの経営を取り仕切っている。現役時代、その土地のシンボルとして住民に愛され、地域活力の中心的存在でもあった世界の名門クラブを渡り歩き、その影響力を肌で感じてきた髙原さん。このコーヒープロジェクトに込めた想いを、このように語る。
「沖縄県の一次産業には、耕作放棄とか後継者不足とかさまざまな問題があるんです。スポーツを生業にしている自分たちがこういったことを解決できないか、そんな想いがありました。どのようにして地域に貢献するのかを考えるのは、とても大事なことです。やっぱりスポーツの新たな可能性というものを示さないといけないと思うんです」
「自分たちも本気でプロジェクトを成長させたいし、栽培して収穫し、加工して販売するという6次産業化までしっかり目指しています。新しい特産物が生まれたら、沖縄の魅力が増える。そして沖縄全体も盛り上がる。そういう状況につながるんじゃないかと思うんです」と、髙原さんはプロジェクトが向かうべき道筋を語る。
沖縄産のコーヒーを、沖縄の新しい魅力のひとつに。この地をコーヒーの一大産地にしようというプロジェクトは、髙原さんの夢をのせて一歩ずつ前に進んでいた。
助成金による環境整備で、プロジェクトの効率がさらにアップ
コーヒープロジェクトを実現するために、沖縄SVはどのように活動を進めているのか。同社 CMOの中村さんは説明する。
「このプロジェクトでは、沖縄産のコーヒーを高付加価値なものとして成立させて、メイン産業である観光と掛け合わせることで事業体制を確立しようとしています。これをスピード感をもって進めるには、人や設備を含めた資金の部分をクリアしなければなりません。ここにみらい基金さんの助成金が活用できれば、プロジェクトの強力なアクセルになると考えました」
当初からできることは自分たちでやっていこうと考えていた中村さん。みらい基金の助成金は大いに役立ったと話す。
「まず、農園をつくるところから始めるんですが、農業の課題のひとつである耕作放棄地、こういう土地を利活用して、自分たちで切り開きながら進めていきました。その際に必要となる、鉄パイプをカットする電動工具や、雑草を取り除く草刈機や耕運機、さらに資材を運ぶ軽トラック、倒した木を細かくする粉砕機など、こういったものを購入させてもらいました」
「あと、このあたりは本当にジャングルで水道が通っていないので、水を保存する貯水タンクも用意しました。それまで人力だけでやっていたことが、作業環境を整備することで段取りよくスムーズに進むようになり、効率もすごく上がりましたね」
「その頃はまだプロジェクトが始まったばかりで、いろんなトライ&エラーを重ねることが必要でした。そういう面でも助成金で作業環境を整えて、さまざまな実験が試せるようになったのは本当に大きかったですね」と、中村さんは当時を振り返る。
地域に雇用と名所を生み出す、コーヒーの観光農園を目指して
こうして少しずつ軌道に乗り始めたコーヒープロジェクト。現在はどのような段階まで進んでいるのだろうか。
「手応えとしては、こういうふうに栽培すればこれぐらい収穫できる、ということが少しずつ分かってきました。販路に関しては、もともとすごくお話をいただいていたので、ある程度道筋は見えている状況です。だから生産の部分がもう少し軌道に乗れば、全体像がはっきりしてくるという段階にはきていると思います」と、中村さんは手応えを口にする。
「協力農家さんは、大小20〜30ぐらいまで増えました。僕たちがつくった苗木を提供し、栽培してもらうという形で、一緒にプロジェクトを進めています。最終的には、6次産業化を見すえて観光農園までつくりたいと考えています。観光農園ができれば、雇用を生むことができますし、新しい観光名所にもなるはずです」と、中村さんはプロジェクトの現在と今後について説明する。
コーヒープロジェクトを地域の課題を解決するための起爆剤に
沖縄SVが牽引するコーヒープロジェクト。現在は自治体とも協力し、実現に向けた取組みを進めている。うるま市役所 部長の松岡さんは、このプロジェクトの意義をこのように語る。
「コーヒープロジェクトがうまくいけば日本でコーヒーが本格的に栽培されているのは沖縄だけとなり、特産地化や観光地化など、さまざまな波及効果が期待できます。また、地元の子どもたちの情操教育、実際に農園でコーヒーの栽培に触れるといった体験学習なども行えるのではないでしょうか」
「沖縄産のコーヒーの付加価値をどんどん高めて飲みに来てくれる方が増えれば、自分たちもコーヒーをつくりたいという人が増えてくると思います。沖縄をコーヒーの一大産地にすることは、地域活性化というレベルを超えて沖縄経済の活性化につながるはず、そんな気持ちで取り組んでいきたいと思います」
沖縄産コーヒーが地域にもたらす恩恵を思い浮かべながら、松岡さんはこのプロジェクトにかける意気込みをそう語る。
沖縄産コーヒーを楽しむことが、当たり前になる日を目指して
コーヒーベルトの北限・沖縄で、国産コーヒーの生産・販売モデルを確立しようというコーヒープロジェクト。さまざまな人々の想いをのせたこの取組みの未来について、沖縄SVの髙原さんはこのように語る。
「沖縄における新しい価値を生み出す、そして沖縄の魅力が増す。そういうきっかけになれたらいいなと思います。進める側もそれによって生活の基盤ができて、暮らしが成り立つ。その一歩を踏み出すところに今来ていると思います。『沖縄に来たらコーヒーを飲もう』と誰もが当たり前に思うところまでもっていきたいですね。それが自分が最初にイメージしていた、このプロジェクトの原点なんです」
沖縄産のコーヒーがもたらす新しい魅力を、あらゆる人に。沖縄SVの「With the Community(地域と共に)」というビジョンのもと、沖縄をコーヒーの一大産地にするという試みは、確かな足取りでゴールに向かって進んでいる。