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農業

農業の未来は、楽しい記憶からはじまる。

農事組合法人 開発営農組合+おうみ冨士農業協同組合

農事組合法人 開発営農組合+おうみ冨士農業協同組合の動画(2016年5月撮影)

「農業って楽しい!」 ファンづくりからはじめる"農育活動"

滋賀県守山市は京都・大阪に近い都市近郊型農業地域。水稲をはじめ、特産品のモリヤマメロン、きゅうりやトマト、花きの生産が盛んだが、担い手は減少傾向にある。そこで開発(かいほつ)営農組合とおうみ冨士農業協同組合(以下「JAおうみ冨士」)では、就農促進や繁忙期の人手不足の解消などを目的として、農業体験を核とする新しい取り組みを開始した。地域のみらいへの想いを込め「農育」という彼ら自身で考えたフレーズで表現されるこの取り組みは、産官学連携によって力強く展開されようとしている。

助成対象事業の
評価ポイント

このプロジェクトは、当地域の豊かな農地を最大限活用しながら、次代を担う農業者を惹きつけ、育てていくための仕組みづくりを、農業者・JA・行政・大学が一体的に手を取り合いながら推進している取組みです。
これまでも開発営農組合(地域の集落営農組織)とJAおうみ冨士が一緒に農業体験イベントなどの都市農村交流事業を進めてきたところ、関係団体が協力しながら京阪神を含めて、広く農業体験者を呼び込み、農業自体を楽しんでもらいながら、繁忙期の貴重な戦力になってもらうことが企図されています。
開発営農組合が事業実践の主体となり、JAおうみ冨士が運営する大型直売所の集客力・販売力・情報発信力とも十分な連携を取りながら、具体的な人・モノの"流れ"を構築するところまで具体的に見据えられています。
この取組みにより、次代の担い手育成から地域農業の発展に繋がることが期待されましたので、当基金から後押しを行っています。

家族連れや大学生、市長も交えた「100人田植え」

5月14日、天気は快晴。まだ誰も足を踏み入れていない田植え体験用の田んぼには、5月の空と雲が映っている。田植えの参加者は、小さな子供とその親、地域の小学生、龍谷大学農学部の学生...そのなかには守山市の宮本市長の姿も見える。午前9時、100人を超える人々が一列になって一斉に田植えをはじめた。

家族連れや大学生、市長も交えた「100人田植え」 イメージ

体験者に交じって田植えをしていた守山市の宮本市長は、「隣で田植えをしている子に『泥んこ遊びしたことあるの?』って聞いたら『ないです』っていうんですね。そういう子たちが裸足で田んぼに入って『田んぼの中は気持ちええんやな』と言いながら『お米ってこうしてできるんや』と感じるのは、かけがえのないことなんです。それだけで素晴らしい教育になるし、農業に興味を持つ子が一人でも出てきたら、地域にとっても大きな意味があることだと思います」と地域の農業体験へ期待を寄せる。

田植え後、4歳の女の子は「泥の中に足がにゅるって入って面白かった。今日植えた苗が秋にお米になるの?」と目をキラキラさせながら話す。その子のお母さんは「ウチの子、よくご飯を残すんですけど、こういう体験をすればお米のありがたみが分かると思いまして」と参加理由を教えてくれた。「苗の植え方は、実際に手を動かさないと分からないですね」と、龍谷大学農学部の学生たちにも教室では得られない学びがあったようだ。
「100人田植え」を企画したのは、守山市洲本町を拠点にしている開発営農組合とJAおうみ冨士。開発営農組合は企業などを定年退職した地域で農業を営む人たちが中心の組織で、メンバーは55名(2016年5月時点)。米麦大豆をはじめ、キャベツや白菜、ブロッコリー、菜花、そして守山市特産のメロンなどを生産している。JAおうみ冨士は、年間40万人以上の集客力を持つ滋賀県最大級の直売所「おうみんち」を運営。施設の隣には、農業体験用の圃場やビニールハウスも備えられている。

「2年ほど前からJAおうみ冨士さんと一緒に農業体験イベントを始めました。参加者の中から、将来の担い手が出てきてほしいと願っています。体験者のみなさんに助けてもらっている部分も大いにあって、例えば3人で3日かかる玉ねぎの収穫が2時間で終わることもあるんですよ」と開発営農組合代表の北野さんは語る。ほかにも、農業体験の収穫物をおうみんちに並べることで、お昼頃までに売れてなくなっていた農作物の補てんができるなど、さまざまなメリットがあるという。

家族連れや大学生、市長も交えた「100人田植え」 イメージ

野菜づくりの匠の技を地域に残したい

開発営農組合とJAおうみ冨士が農業体験を推進する背景には、深刻な担い手不足の問題がある。JAおうみ冨士で常務理事を務める木村さんは「20年前、JAおうみ冨士の管内で450名ほどいた野菜生産者が、現在は200名ほどになってしまいました。後継者を育てていくことが大きな課題です」と話す。北野さんは「この地域には、ものすごい野菜づくりの技術を持っている農家がたくさんいます。でも、みな70代、80代になってきている。この匠の技を次の世代に引き継ぐには、今しかないんです」と危機感をつのらせる。野菜づくりの匠が元気なうちに後継者をどれだけ増やすか。後継者になり得る「農業を愛する人」をこの地に惹きつけるための方法の一つが農業体験というわけである。

野菜づくりの匠の技を地域に残したい イメージ

まずはなるべく多くの人に農業体験に参加してもらい、農業そのものの面白さに触れてもらう。そのために、さまざまな組織が一体となって農業体験希望者を受入れる体制をつくる。そして、自分でもおいしい野菜を作りたいと思った人に対しては、地域総ぐるみで一人前になるまで丁寧に支援していく。ここまでくれば、立派な担い手の候補だ。これが開発営農組合とJAおうみ冨士が掲げる"農育"の考え方。一連の取り組みを「農育みらいプロジェクト」と呼んでいる。

守山市は京都、大阪に通勤する人たちのベッドタウンであり、それだけこの地域は大都市圏からのアクセスが非常によいということ。裏を返せば、京都、大阪に住む、農業に興味がある人をこの地域に引き込むこともできる。現状は労働力が流れていく先にある京阪神まで拡げていけば、将来の農を支える人材が見つかる可能性が高まるのでは、と考え、積極的な集客をはじめた。

肩ひじはらずに「農業のファン」を増やしていく

JAおうみ冨士は、生活協同組合コープしがと協力体制を築いており、生活協同組合コープしがも組合員に向けて「100人田植え」イベントを告知した。また、守山市では「もりやま・食のまちづくりプロジェクト」が動いており、食をテーマにした町づくりが進められている。「今回の農育みらいプロジェクトは市も一体的に協力しています。たとえば市とJAなど、関係する組織のコミュニケーションが密で、何でも相談できる仲になっているので活動が活発なんです」と守山市都市経済部 都市活性化局次長の飯島さんは、地域の風通しのよさを強調する。こうした連携が実り、農業体験希望者は滋賀県内はじめ、京都や大阪などの大都市からも集まるようになった。

肩ひじはらずに「農業のファン」を増やしていく イメージ

農育みらいプロジェクトを拡大していくうえで、体験用の圃場づくりなど、さらに人が集まることができる拠点を整備していくことや、新しい受け入れシステムを構築していくことが課題になっており、それがみらい基金への応募動機となった。初年度では開発営農組合とJAおうみ冨士が別々に申し込んでいたが、みらい基金の採択が決まったのは二度目の応募である。

北野さんは二度目の応募を検討するときに、「これから10年を考えたら、今のままではいかん」と感じ、JAを含めた地域の関係者一同と広く深く話し合った。農育みらいプロジェクト事務局長の岡本さんは「地域には後継者も、教えられる人も少なくなってきている。それなら今の自分たちでなんとかするしかない。何がなんでも農育だけはものにするんやと思いました」と当時の想いを語る。

JAおうみ冨士食育園芸部長の川端さんは、「僕らの役割は、農業に興味を持つさまざまな人々と生産者たる開発営農組合をつなげていくゲートウェイになること。開発営農組合のエキスパートのみなさんとの出会いの可能性を広げていくことに、地域としても大きな意義があると思います」と、一緒になってみらい基金へ応募した理由を話してくれた。二度目の応募までのやりとりが、開発営農組合とJAおうみ冨士の連携を強めたのである。

2015年に農学部が設立されたばかりの龍谷大学も連携の輪に加わった。同大学農学部の淡路教授は「地域の農業と関わることが農学部の使命。そして学生たちが自分たちの食べるものの原点を現場で理解することが農学の基本です」と話す。今回の連携について、地域に根付いた農学部づくりの第一歩としてとらえているそうだ。こうして産官学連携が強まっていき、農育みらいプロジェクトはいよいよ本格稼働をはじめる。

農家が先生になり、体験者が生徒に。ゆくゆくはその生徒が先生へと成長していく。3年前、おうみんちの敷地内にあるモリヤマメロンのトレーニングハウスに生徒としてやってきた人が、今は指導員として活躍している。この流れを地域全体で作っていくことが目標だ。「最初から必ず人を育てようとプレッシャーに感じるのではなく、『農業のファンを増やす』気持ちでやっていきたい。ファンが増えてくれば、自然とその中に農業をやりたいという人が出てくるでしょう。肩の力を抜いて次世代に農業の楽しみを伝えられることを喜びながらやっていこうと思います」というように、北野さんに気負いはない。

肩ひじはらずに「農業のファン」を増やしていく イメージ

農業のファンづくりからはじめる"農育"。この取組みが続いていくことで担い手が少しずつ増え、地域が今よりももっと元気になるはず。野菜づくりの匠の技術と、琵琶湖やおうみ冨士といった自然と農業が織りなす素晴らしい風景、そしてこの地域の笑顔を広げていきたい――そんな農業のみらいに対する大きな夢を抱きながら、農育みらいプロジェクトは連携の輪を広げ、自然体で取り組みを続けていく。

助成先の組織概要

農事組合法人 開発営農組合

JAおうみ冨士のファーマーズマーケット「おうみんち」に隣接した守山市洲本町開発地域で集落営農を行っている。一般企業などに勤めながら農業を行う兼業農家から、定年後に専業へと移行した農業従事者が多いのが特徴。現在55名で組織しており、地域でいち早く営農組合の法人化を行い、事業部制を取り入れるなど、新しい取り組みを積極的におこなっている。

おうみ冨士農業協同組合

1997年2月に、守山市農業協同組合、滋賀野洲町農業協同組合、中主町農業協同組合が合併し、おうみ冨士農業協同組合が発足。三上山(近江富士)を望むこの地区は、近年は京阪神のベッドタウンとして都市化が進んでいる。古くから「近江米」の産地として稲作農業が発達するとともに、都市近郊型農業地域として園芸作物も活発に生産され、メロンをはじめ、きゅうり、トマト、花きの産地として有名。

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