資源ごみを利活用して、北陸の冬の農閑期対策に挑む
石川県加賀市。冬場に強い寒さに見舞われるこの地域では、農作物が生育できる時期が限定され、これが農業の生産性が上がらない一因となっている。
株式会社なっぱ会は、循環型農業の確立を目指して設立された農業法人。家庭から出る生ごみや学校給食の調理残渣(ざんさ)などを堆肥化し、農業に利用する食品リサイクル事業を行ってきた。同社の代表取締役である北村さんも、冬場の農閑期対策は大きな課題だと感じていた。
「新規就農者の育成は、農業の絶対的な課題のひとつです。やはり若い世代に出てきてもらわなければいけないわけです。それが『北陸の冬は寒いし、仕事がない』だと話にならない。それでは来ないですよね、若い人は」と語る北村さん。
食品リサイクルを通した資源ごみの利活用によって、地元の農業の課題解決に貢献したい。北陸の冬場の農業を活性化させ、循環型農業の構築を目指すプロジェクトがこうしてスタートした。
天ぷら油などの廃食用油を燃料とした暖房システムを構築
なっぱ会では、これまで廃棄物として処分されていた家庭系廃食用油を未利用資源としてとらえ、加温機のエネルギー源として再利用できるシステムを構築。ビニールハウス内に加温機を設置して温風を送り、冬場の農作物の生育を促すことで生産性の向上を図った。
「この地域の冬場は寒さでなかなか作物が育たないのですが、天ぷら油などを燃料にできる加温機でビニールハウス内を暖房し、さまざまな農産物を栽培しています」と語る、なっぱ会の堀井さん。
生産量が一番多い農作物は、きゅうり。続いて地元の伝統野菜である、金時草(きんじそう)。そしてミニトマトとなる。これらはブランド野菜「加賀五菜」として、石川県内の販売所や観光施設で販売されているほか、公立小中学校の給食用食材として提供し、食育の一環としての活用を図っている。
きれいな"リサイクルの環"が、市民の環境意識も変えていく
廃油を再利用して冬場の農業生産性を向上させる取組みには、自治体もエールを送っている。石川県加賀市 産業振興部 環境課の西野さんは、なっぱ会の活動についてこのように話す。
「この事業は、"リサイクルの環"がきれいにできているので、これを発展させていけたらと思っています。廃油を使ってこんなにおいしい野菜ができることが広まれば、自分たちのごみの分別がこのような効果を生んでいくのだと、市民の方々にも非常にいい循環が生まれていくと思います」
通常、廃食用油のほとんどは可燃ごみとして焼却処分されてしまう。つまりこの活動は、廃棄物の再資源化はもちろん、焼却によって発生する温室効果ガスの削減にも貢献するのだ。
「循環型農業や脱炭素の観点からも、このような取組みはどんどん大きくなってもらいたいですね。もちろん我々も、この活動を支援する意味で廃油の回収という役割をしっかり担っていきたいと思います」と西野さんは、社会的意義の高いこの活動に期待をかけている。
未利用資源を活用した循環型農業を、加賀市から全国へ
なっぱ会の北村さんは、今回のプロジェクトをこう振り返る。
「当初問題だったのは、設備投資にかかる経済性のことですね。廃油を燃料に使える特別な加温機なので、通常のものより4割ほど高額なのです。それを普通に導入すると減価償却できるかというリスクが生じるのですが、今回はみらい基金さんの助成金が受けられたので、チャレンジできるステージに上がることができました」
さらにプロジェクトの未来を、北村さんはこのように思い描く。
「天ぷら油って、人口6万人の加賀市だけで約17,000ℓも集まるんです。これを東京でやったらどれぐらいの量になるかって思いますよね。加賀市を起点に全国にこうした取組みが広がり、エネルギー活用できれば本当に最高だと思います」
「あと、なっぱ会のビニールハウスに、いわゆる環境学習として子どもたちが来るんですよ。こういう仕組みで育てた野菜が給食になっていることを知ると、給食の食べ残しも減るし、食育の一環にもなります。また、親御さんも若い方が多いですから『リサイクルに協力しようじゃないか』という意識が広がっていきやすい。地域や生活に密接しているという意味で、環境学習としての効果はかなり高いと思うのです」と北村さんは、地元の環境意識の高まりに期待する。
廃食用油をエネルギー資源として農閑期対策に利活用するというなっぱ会の取組み。北陸で生まれたこのプロジェクトが、地方の課題解決に貢献し、その先にある循環型農業の確立を見すえながら、地域農業の未来に新たな可能性を育んでいく。