「土地利用型農業」の衰退

宮崎県では、ハウス等の施設を使用せず屋外の畑で農作物を育てる露地栽培を中心とした「土地利用型農業」の振興が長年課題とされてきた。しかしながら、少子高齢化に伴う農業者の急速な減少に加え、気候変動による収穫量の増減等、外部リスクに起因する農業経営の不安定化に端を発して、担い手不足や耕地利用率の低下、耕作放棄地の増加が進行。結果として、「土地利用型農業」経営の収益性も年々悪化の一途を辿っていた。
地元農家との連携

そこで宮崎ひでじビールが中心となり取り組んだのが、ビールの原料である大麦とホップの地元生産。宮崎ひでじビールでは会社設立時より日向夏やきんかん等の県産物資源を活用したビール・発泡酒の開発・商品化を進めており、国内外のコンテストにおいて高評価を得ていた。本事業をきっかけに大麦・ホップを含むすべてのビール原料を県内で調達することを目標として掲げ、一次産業を中心とした地域経済の活性化に貢献していく方針だ。
まず取り組んだのは、ビール用原料として使用する大麦とホップの試験栽培。平野部の稲作農家では裏作としてビール大麦、中山間地域の小規模農地ではホップの試験栽培を実施し、温暖湿潤な宮崎県においてもビール大麦とホップの栽培が可能であることを実証した。さらに、収穫した大麦やホップは宮崎ひでじビールが定額で全量を買い取ることとし、農業者の安定的なビジネスモデルを確立させた。結果として、大麦の栽培面積拡大や県内機関と連携した組織的なホップ栽培が進行し、事業が大きく動き出した。

若手農業就業者へのサポート
「農産物を売って生活するのはすごく厳しいことですが、ひでじビールさんと一緒に取り組みをすることで作ったものを必ず買ってくれるという部分で経営が安定する。機械類の購入や維持管理もなかなか難しい状況の中で、みらい基金の助成を活用して機械類を購入していただくことで、始めるリスクやハードルが下がりますよね」
そう話すのは、地元農家で稲作と大麦の二毛作に取り組む亀長さん。大麦やホップを初めて育てる農業者に対して、みらい基金の助成金を活用して初期投資の補填を行うことで、可能な限り参入障壁を下げ、地域の農業者が幅広く参画できる環境を整えている。

さらに、宮崎ひでじビール統括部長の梶川さんはこう話す。「大麦の栽培面積を増やしていこうというところで一番課題になっていたのが『収穫した大麦をどこに保管するのか』ということでした。お米の時期と被ると倉庫のスペースに余裕がなくなってしまうので倉庫建設にみらい基金の助成を活用しました」

収穫した大麦は休眠解除のために約6ヶ月間低温保管する必要がある。当初は民間倉庫に保管していたが倉庫保管料が農家の収益を圧迫し、栽培面積拡大の足かせとなっていた。そこで、みらい基金の助成金を活用して県内で収穫した大麦を集積・低温保管するための穀物倉庫を宮崎ひでじビールの敷地内に建設し、収穫した大麦の回収・運搬・荷卸しを行うことに。
農業者の声に耳を傾け積極的に連携して農業経営の仕組みづくりを行うことで、持続的な地域農業モデルの構築の実現に向けて着々と前進している。
ビール粕を牛農家に提供、牛肉加工品をひでじビールが販売

こうして地元の力を結集して生み出された大麦やホップはクラフトビールとして製品化されていく。その製造過程で出た大麦の粕は、そのまま廃棄するのではなく、加工を施したのちに牛の餌として再利用するため地元畜産農家へ提供される。今後は、餌を食べた牛から排泄された牛糞はビールの原料を生産している畑の肥料として活用される予定である。さらに、肥育した牛を原料としたビーフジャーキー、サラミなどの加工食品を宮崎ひでじビールが販売し、売り上げの一部を大麦・ホップ農家、畜産農家に仕入れ代金として還元。このように、地元農業者と宮崎ひでじビールとの間で、地域資源や資産が循環するルートを構築しクラフトビールと地域農業が繋がり波及し合う関係性の実現を目指している。
宮崎ひでじビールの地域活性化モデルで九州エリアを盛り上げていく

宮崎ひでじビールの永野社長はこう意気込む。「この九州アイランドをしっかり盛り上げていきたい。このエリアの成功例をうちが作り、そういう姿を見せることで同じエリアの色々な方がうちも頑張ろうとやる気になってもらえると非常に理想的」。
宮崎ひでじビールが取り組むプロジェクトは、いま国内外問わず注目度の高いクラフトビールを中心とした地域活性化のビジネスモデルとして、九州のみならず全国各地、あるいは海外からも注目されることになるかもしれない。持続的な地域農業活性化のプロジェクトは宮崎県延岡の町を飛び出し、いま世界に羽ばたこうとしている。