農作業の進捗を可視化し、地域全体で生産効率を高める
日本の農業は高齢化の進行により、経験豊富な担い手の減少や次世代への技術継承が大きな問題となっている。これに対し、JAや自治体では農作業の実態を正確に把握し、データに基づく生産性向上や持続可能な地域づくりを進めようとしている。しかしながら、詳細な農作業データの記録は農家にとって負担が大きく、対応が難しい状況が続いていた。
こうした課題に向き合うのが、北海道の標津町を拠点とするエゾウィン株式会社である。
平均年齢33歳の若手メンバーを率いるCEOの大野さんは、次のように話す。
「エゾウィンは、日本の食を支えることをミッションに掲げたスタートアップ企業です。全国各地からさまざまなプロフェッショナルが集まり、独自のシステム開発や事業展開を行なっています」
当初、農作業の日報を自動化したいという要望がエゾウィンに寄せられ、GPSを活用して作業を自動記録できる仕組みを開発したことが、プロジェクトの始まりだった。
大野さんは次のように振り返る。
「『レポサク』を使った農家向けのソリューションは、すでに個々の農家に提供できていました。これを、地域内のすべての農家の作業状況を把握できる仕組みへと再構築し、地域全体の課題解決に取り組むことになったのです。常時1,000台規模のデジタル機器が稼働する環境となるため、インフラは耐えられるのか、データを安定して収集できるのかといった検証が不可欠でした」
こうした課題を背景に、JAや自治体が窓口となってプロジェクトを立ち上げ、みらい基金にエントリーしようという話が持ち上がった。システム開発や端末導入に必要な費用は助成金により確保され、地域全体の生産性向上を目指す"地域まるごと農業DXプロジェクト"が本格的に始動した。
三者の立場で機能する、"活きたデータ"を生み出していく
『レポサク』で収集した農作業データをもとに、農家、JA、自治体がそれぞれの立場で作業状況を把握・比較し、地域全体の生産性向上を目指す本プロジェクト。その具体的な取り組みについて、エゾウィンの総務・サポート担当である野上さんが説明する。
「みらい基金の助成金により、十勝エリアの4つの農協に、これまでにない規模となる約1,500台の『レポサク』を導入することができました。あわせて、各農家にはタブレットも提供しています。農業機械にレポサクを設置することで、各作業にどれくらいの時間を要したのかを、概算ではなく正確に把握できるようになります」
作物ごとの作業時間が可視化されることで費用対効果をとらえやすくなり、作物ごとの傾向や特性も明らかになる。また、作業履歴の追跡といったトレーサビリティの面でも透明性が高まり、消費者からの信頼性向上にもつながる。
「もともと収集が難しいとされた農作業データを可視化できたことは、これからの農業にとって非常に大きな意味があると感じています」と、野上さんは手応えを語る。
さらに、取集したデータの意義について、次のように続ける。
「このプロジェクトは、私たちがデータを集めるだけでは地域課題の解決にはつながらない。エゾウィンが提供する『レポサク』を農家の方々に実際に使っていただき、JA、自治体がその状況を把握する。このように三者が交わることで、地域にとっての"活きたデータ"になるのだと考えています」
農作業の効率が向上すれば、収入が上がり、余暇も増える。『レポサク』によるデータの蓄積が、経済・精神の両面で、地域の農業従事者にプラスの効果をもたらすと、野上さんは期待する。
他の農家を参考にできるなど、情報共有が新たなメリットを生む
実際に『レポサク』を活用している関係者は、このシステムのメリットをどのように感じているのだろうか。
芽室(めむろ)町農業協同組合 農業振興センターの長濱さんは、導入の効果について次のように語る。
「私たちの町内では、約200台の『レポサク』を農業機械に設置して稼働させています。現在、収穫作業に使うコンバインは34台ありますが、この台数が適正なのか、データで把握したいと考えています。
これまでは経験則に頼って農業機械を運用してきましたが、『レポサク』によって作業を"見える化"することで、時間配分や作業効率を適切に判断できるようになりました。これは非常に大きな意味があることです」
さらに、長濱さんは、現場での作業負担軽減についても言及する。
「作業データは、圃場でコンバインを追いかけて記録する必要がなく、どこで何をしているのかをモニター上で簡単に確認できます。作業負担が軽減されるだけではなく、数値や画像といったデータを日々蓄積し、見やすい形に加工することもできます。今後も積極的に活用していきたいですね」
また、芽室町種馬鈴薯生産組合の組合長である福田さんは、地域でのデータの共有にメリットを感じている。
「今は町内のほとんどのトラクターに『レポサク』を取り付けているため、自分の農場だけでなく、他の農家のトラクターの動きも見ることができます。機械の使い方や作業の進め方、手順など、参考になることが多いですね。
データを蓄積することで、農家ごとに経営方針も立てやすくなりますし、JAの職員が各農家の動きを把握できれば、地域全体の効率化にもつながっていくと思います」
"勘"と"コツ"と"経験"をデジタルで継承し、未来につなげていく
『レポサク』によって、農作業の"見える化"を実現してきたエゾウィン。地域課題の解決と次世代への技術継承に向けて大きく一歩を踏み出した今、どのような未来を見すえているのだろうか。CEOの大野さんは語る。
「農業に携わる方々が何十年もかけて積み重ねてきた作業の軌跡には、"勘"と"コツ"と"経験"が全部つまっています。僕らにはすぐに理解できなくても、農業従事者が見れば多くの気づきが得られる。つまり、次の世代へと継承できるものになるのです。これから先、人が減っていく時代に、そうした"勘"と"コツ"と"経験"をデジタルで残すことができれば、その地域の農業は未来につながっていく。そんな考えが僕らにはあります」
さらに、大野さんは未来への想いを次のように笑顔で語る。
「農業には、土や天気、農薬や肥料、食害、エネルギー問題など、さまざまな要素があり、それらが複雑に絡み合って課題を生んでいます。そうした要素が絡み合い、ブラックボックス化している部分を、少しでも"見える化"していきたい。一つの課題を見える化して解決を図っても、また次の課題が現れ、課題が完全になくなることはない。だからこそ、農業に携わることを面白いと感じているのです」
若い世代が新しい技術を駆使して挑戦する、"地域まるごと農業DXプロジェクト"。現場の"見える化"というアプローチが、地域農業の持続的な未来を切り拓いていく。

