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林業

ITで、山を使いこなせ。

北信州森林組合

北信州森林組合の動画(2017年7月撮影)

アナログからデジタルへ 北信州から「みらいの林業」を広めていきたい

スキーや温泉をはじめとする観光や、果樹やキノコなどの農産物の生産が盛んな北信州地域。林業は主要産業に次ぐ二次的な位置付けであり、「自分の森がどこにあるかわからない」という所有者も多い。そんな現状を打開し、森林資源の活用を進めていくために、北信州森林組合は森林の現況把握と零細林の集約化、施業計画から生産まで、一連の流れをITで効率化する「ICT施業システム」の開発に取り組んでいる。ICT施業システム完成後は、北信州森林組合だけでの利用にとどめることなく、林業経営に課題を抱えている他地域にもノウハウを提供していく考えだ。

助成対象事業の
評価ポイント

当森林組合は、これまでも森林資源の情報把握や、森林整備計画の作成等にあたり、航空レーザー計測データや森林GIS(地理情報システム)による山林情報のデジタル処理等、最新のICT技術を活用しながら効率的な林業経営を目指してきました。 今回のプロジェクトは、システム管理を更に高度化していくもので、当森林組合が実直に林業に向き合うなかで蓄積してきたノウハウをベースとして、これまで手間と時間をかけてきた森林施業(林業を行ううえで必要な作業)の川上から川下まで一貫したシステム化に取り組みます。 これにより、実地確認から木材生産量の推定、収支計算、生産量の集計、事業精算等まで、デスクワークのコストを大きく削減し、人手を現場に回し生産力を高めることで、山主の手取りアップと林業の収益力向上が期待されましたので、当基金から後押しを行っています。

人海戦術で行っていた森林調査・測定をデジタルで効率化

人海戦術で行っていた森林調査・測定をデジタルで効率化 イメージ

1998年開催の長野冬季オリンピックの会場だった北信州地域は、ウィンタースポーツが盛んである。野沢温泉をはじめとする温泉地には、年中観光客が訪れている。果樹とキノコの産地としても有名だ。

「北信州森林組合の管轄地域は、観光か農業が主な仕事で、林業は二次的な産業です。輸入材に押されて木材価格が低迷してからは、地域のみなさんの林業に対する関心も低くなっています」と北信州森林組合の代表理事組合長を務める中山さんは現状を話す。

人海戦術で行っていた森林調査・測定をデジタルで効率化 イメージ

豊富な森林資源を最大限有効活用し、木材自給率を50%まで高めていくことは「国家戦略プロジェクト」のひとつに位置付けられている。木材生産量の増大を実現させるにあたり、北信州森林組合には大きな課題があった。急峻な斜面や農地のあとに植林された零細林が多く、所有者も自分の山林がどこにあるか知らないケースが珍しくないのである。

北信州森林組合業務課長の堀澤さんは、「林業というと一般的には木を切るイメージが強いと思います。だから生産量を上げるために、人を増やそう、機械化しようという話になりがち。でも、実際のところ労力がかかっているのは、細かい山林を所有者ごとにまとめる境界明確化や、施業効率をあげるための集約化の部分なのです」と話す。

人海戦術で行っていた森林調査・測定をデジタルで効率化 イメージ

これまでは境界明確化と集約化、資源量の見積もりを、人海戦術で実施していた。調査や測量を人力で行うと時間とコストがかかるだけなく、ミスや誤差も出てきがちだ。そうした背景から、同組合では2014年以降、航空レーザーによる計測データの活用を開始。一本一本の木の位置や高さ、太さまで把握できるようになり、森林資源量が「見える化」できるようになった。

しかし、せっかく高精度なデジタルデータがあるのにも関わらず、同組合では施業に関する情報の後行程への伝達を、ほとんど紙面や口頭だけでやり取りしていたため、「手書きの情報をExcelに入力する」などの二度手間や、データの散逸が起こっていた。施業計画から木材生産、生産後の情報管理まで効率的に行うためのICT施業システムの開発をスタートしたのはそのためである。

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「とりあえず木を切る林業」からの脱却

北信州森林組合が取り組むICT施業システムの開発は、北欧の林業先進国スウェーデンやフィンランドの事例がモデルになっている。フィンランドの国土面積は日本と同じくらいだが、人口は約20分の1。少人数で広大な森林を管理し、木材生産をするためにはICT施業システムはなくてはならないものだった。

「極端な言い方をすれば、日本の林業は販売先が決まっていなくても、とりあえず木を切って出していくやり方です。一方、北欧では、山の中で『ここからこれだけの木材を』という注文を受けて、それから作業することが普通に行われています。ICTによって、森林の現況把握と施業、そして流通の効率化まで実現させているのです」と堀澤さん。

北欧には及ばないが、北信州森林組合のICT施業システムも、すでに大枠は固まりつつある。まず、レーザー計測で取得したデータを解析し、高精度地理情報や森林資源の量などの情報を追加して、森林の「見える化」を行う。それを効率的な施業ができるように団地化(長期的な管理を目的として、所有者が違っても一つの施業エリアとしてまとめていくこと)し、施業計画を立てる。

「とりあえず木を切る林業」からの脱却 イメージ

さらに「見える化」された森林情報をもとに、施業に最適な機械と、路網(林道・作業道)を選定。現場についたら、作業員がスマートフォンやタブレット端末のシステムで、作業計画・作業指示を確認しながら施業を行う。それが終わったら、生産量や作業工数、勤務日報を端末に入力。これによりリアルタイムで施業履歴が元のデータに反映される仕組みになっている。

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切り出した木材は、その場でスマートフォンに口径・本数等のデータを入力し、インターネットで伝送したうえで、中間土場(ストックヤード)に運ばれる。ここでも情報とモノの動きの合理化・効率化が行われている。同組合の業務主任の尾淵さんは、「軟弱な路網や細い農道は大型トラックやトレーラーで入ることができません。そのため大型車でもアクセスしやすい場所に中間土場を設けています。ここに中国向けの輸出用木材、建築用木材、バイオマス用木材など規格ごとに大量に木材をストックすることで、木材流通を効率化しています。一度にたくさんの物量を動かせるので、取引の面でも有利です」と中間土場の役割を解説する。

「とりあえず木を切る林業」からの脱却 イメージ

また、中間土場には出入りする車両の重さをはかるトラックスケールが設置されており、ここで木材の積載量が自動的に算出される。木材の種類などの情報も、ドライバーがQRコードをスキャンするだけで簡単に入力が可能。これらのデータは北信州森林組合の事務所に送られるため、リアルタイムで中間土場の状況を把握できるというわけだ。

「とりあえず木を切る林業」からの脱却 イメージ

IT化のフロントランナーとして日本の林業に貢献したい

林業のIT化を進めている森林組合は国内にはまだ少なく、北信州森林組合はICT施業システム開発のフロントランナーといえる存在である。2017年12月にはICT施業システムのプロトタイプが完成予定。実務で利用しながら検証を重ねて、2018年度中の本格稼働を目指す。みらい基金の助成金は、システムの開発費として活用されている。

「まだまだ林業はIT活用が進んでいないことを、林業関係者はもちろん、それ以外の方にも知っていただきたいです。林業にこそITが必要だと理解してもらえれば、全国的に合理化・効率化が進むと思っています」と尾淵さん。

IT化のフロントランナーとして日本の林業に貢献したい イメージ

堀澤さんは今回の取り組みの先に、大きなビジョンを描いている。「林業は、森林という大きな工場を運営しているようなものだと思います。その工場の合理化を進めていかないと、産業として大きく成長するのは難しい。ですから、ICT施業システムが完成したら、ほかの地域にも波及させていきたいと考えています。これまで林業は地域ごとに営まれてきましたが、これからは木材自給率を高めるために情報を共有して、地域の枠組みを越えて取り組む産業になっていくのではないでしょうか」

IT化のフロントランナーとして日本の林業に貢献したい イメージ

日本には資源がないと言われているが、森林資源は全国いたるところで眠っている。それを「見える化」し、合理化・効率化を進めていけば林業は元気になり、日本の成長産業になる日が近づいてくるだろう。そんな「みらいの林業」が、北信州の地からはじまろうとしている。

助成先の組織概要

北信州森林組合

長野県北部の中野市に拠点をかまえる中核森林組合。地域の森林管理主体として、地域の森林を守り、森林環境保全と林業発展を通じて、地球温暖化防止へ貢献を目指す。さらに水源の保全、国土の安全、健全な森林環境と、良質な木材生産を通じて、国民の豊かな住生活を支えていくことを使命に掲げる。地域材展示施設「創森館」の運営、間伐材製品の企画開発、ICT施業システム開発など、常に新しいことにも挑戦している。

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