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水産業

漁師になりたい。その情熱に、みんなで応えたい。

三重外湾漁業協同組合

三重外湾漁業協同組合の動画(2015年7月撮影)

情熱を込めた"人づくり"を通じ海女・海士(あま)漁の伝統を若者に託す

三重県南東部の伊勢志摩は、海の恵みが豊かな地域である。近年は漁師の減少と高齢化が進んでおり、三重外湾漁業協同組合志摩地区では、全国から漁師志望者を集めて漁師(独立・自営)を育てる「畔志賀(あしか)漁師塾」を立ち上げた。さらに現在は、休漁中も安定した収入を得るために、海産物の加工場の建設などを計画している。この新しい挑戦は、地域漁業再生の一つの道標になるかもしれない。

助成対象事業の
評価ポイント

このプロジェクトは、全国にもあまり例のない自営漁師を地域一体となって育成していくものです。
地元の先輩漁師が背中で教え、他所から来る塾生の定住に向けては地域全体でサポートしていく。一人一人が手を取り合いながら地元漁業の活性化と地方創生に取り組んでいます。
リーダーの強い志でもって地域を巻込みながら進めていく取組みであり、「地域のくらしの発展に向けた"熱意"と"挑戦意欲"に溢れた取組み」であると認められ、後押しをすることにしました。

全国から漁師希望者が集う「畔志賀漁師塾」

全国から漁師希望者が集う「畔志賀漁師塾」 イメージ

2016年5月に、各国首脳と欧州委員会の委員長が参加するG7サミットが開催される伊勢志摩。この地域は海産物が豊富で、アワビやサザエの海女漁、伊勢海老などの魚介を獲る刺網漁などが昔から営まれてきた。

全国的に漁師の減少と高齢化が問題になっているが、三重県南部の太平洋に面した「三重外湾漁業協同組合」も同じ悩みを抱えている。「昔はこの町に男として生まれたら、漁師になるのが当たり前やった。これは仕方がないことかもわからんが、次第に跡を継ぐ人が減ってしまった。これまで、この地域の人間は漁師になって海からの恵みで子供を育ててきた。だから私は、海への恩返しをしたい」と同組合の理事の城山さんは熱意を込めて言う。

地元の人たちだけで、漁村地区の文化を守ろうとしても、漁師の数が尻すぼみになると考えた同組合では、県外からも漁師希望者を募る決断をした。こうして、取り組みの拠点となる志摩市の畔名(あぜな)、志島(しじま)、甲賀(こうか)から一文字ずつ文字を取った「畔志賀(あしか)漁師塾」の取り組みが2010年よりスタートしたのである。

塾生は岡山や大阪、東京などから集まってきた。海女・海士(あま)になって生計を立て、見知らぬ土地で暮らすのは簡単なことではない。まず住居の確保が大変だ。そのため塾生には、城山さんをはじめとする地域の方のサポートにより、空き家などがあてがわれている。

また、刺網漁では船などの漁具が必要。塾生のために、中古の船を探したり、船を係留する場所も用意する。城山さんは「知らない土地で漁師になって独立しようという人たちに何も支援しないのは間違っとる。地域の人間が彼らを守る責任がある」と語る。

漁ができる海域、海産物の量は限られているので、漁師が少ないほうが一人当たりの取り分は増える。県外から来た人を漁場に迎えることに反対の声がなかったわけではないが、「このままでは10年後、この地域はどうにもならなくなる」と城山さんは説いて回ったそうだ。

10年後のみらいを担うのは塾生たち

10年後のみらいを担うのは塾生たち イメージ

「畔志賀漁師塾」の塾生は地元の先輩漁師の背中を見ながら、体当たりで漁のやり方を覚えていく。東京からやってきた第一期生の山内さんは、「ここの人たちは何を聞いてもつつみ隠さず教えてくれる。海女さんは高齢の方が多いですけれど、都会の高齢者よりよほど元気で声が大きくて、そして温かいんですよ」と教えてくれた。

高齢の海女さんのなかには、浮力が働く海の中では仕事ができるが、陸の上では杖がないと歩けないという人もいる。山内さんは、海の中では彼女に仕事を教わり、陸の上では肩を貸す。このような地元の人と塾生の助け合いも自然に生まれた。城山さんは言う。「山内君が海女さんを抱えて歩いている姿を見て、なんとも言えない気持ちになった。昔は当たり前だった漁村の姿が、そこにあったんよ」

入塾してから5年目を迎えている山内さんは、漁師として生計を立てられるようになってから、塾生同士で結婚した。城山さんは山内さんの結婚式の挨拶のとき、涙が込み上げてきて途中で詰まってしまったそうだ。ちなみに、山内さん夫妻には最近、子供が生まれた。一家で完全にこの地に根を下ろして生活を営んでいる。

「10年後、自分が元気でいる保証はない」と城山さんは言う。地元出身の海女さんも今より減るだろう。10年後には塾生のみんなが新しい人に教える立場になっていなければならない。だから城山さんと塾生との関係に上下はないのだという。「彼らがこの地域の文化を手直しして、新しいものに変えてくれればいいと思っとる。みんなようやってくれている。私らよりいろんな事を勉強しとるもん。今の若い子は本当にすごいよ」と城山さんは誇らしげだ。

事実、塾生は地域の自治会にも参加して、漁の申し合わせ事項なども話し合って決めているという。県外出身者が多くを占める塾生たちが、地域づくりに主体的に参加し、その主役になりつつある。この地域では、可能性あふれる塾生の力を引き出して、一緒になって新しい町づくりを進めているのだ。

海の恵みと漁村文化をみらいに残す

海の恵みと漁村文化をみらいに残す イメージ

この地域で海女・海士の仕事ができるのは、5月から10月まで(地区によって異なる)であり、シーズン中であっても荒天のときは海に出られないなど、仕事ができない日は少なくない。

その休漁中の問題を解決する一つの策として生まれたのが「志島おさかなくらぶ」である。この地域の海の幸を加工して販売するための場を作ることで、オフシーズンも安定的な収入を確保し、お年寄りも一緒に働ける場づくりとしても地域に貢献することを目的として誕生した。鮮魚の一次加工(イカの短冊)、伊勢海老・アワビの送り販売、キンコイモ(ほしいも)の加工販売などが予定されており、加工場の建設費等にみらい基金の助成金が活用される。この地域は女性部の活動が盛んで、以前から海老汁を作ったり、お弁当を作ったりしていた。そんな地域の味をより深めていくことで、6次産業化していきたいという思いもある。

「日本の食はレベルが高い。『これが地域の味です』と言うても、簡単に満足してもらえんやろう。だから長い目で見てほしい」と城山さんたちは慎重だ。

「志島おさかなくらぶ」についても、塾生が一緒になって知恵を出している。2年目の塾生で海女を目指している西村さんは、「自分から海女を目指してこの地域に飛び込んできました。いま、とてもやりがいを感じていますが、私たちは結婚して子供ができてという女性の人生も考えていかなくちゃいけない。海女漁ができないときにどうするかというのは、自分たちも一緒になって考えて、取り組んでいく課題です」と話してくれた。

伊勢志摩の海の財産、海女・海士の文化をみらいに残していくことが、城山さんと塾生、そして地域に住む人々の共通の願いである。城山さんは最後に、「この地域がどうなったのか、10年後にもう一回見に来てほしい」と訴えた。

海が荒れれば漁に出ることはできない。海の中では陸の上からは想像できないような危険に遭遇することもある。海女・海士の世界は決して甘くはない。しかしながら、この地域では、地元の方の寛容さと受け入れ体制、海女・海士を本気で目指す若者の前向きさと可能性をうまく調和させながら、地元漁業の活性化と地域づくりに向けた取り組みを、着実に進めている。

助成先の組織概要

三重外湾漁業協同組合

2010年2月1日、三重県南部太平洋に面した12の漁協(志摩の国、布施田、鵜方、くまの灘、錦、長島、海山、三木浦、九鬼、須賀利、曽根、梶賀)が合併し、三重外湾漁業協同組合として発足した。地域の漁業経営の安定と水産物流通加工業等の振興等に向けた取組みを行っている。

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