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農業

地域のみらいを、雪の下から掘り起こせ。

えちご上越農業協同組合

えちご上越農業協同組合の動画(2015年3月撮影)

米と共に生きてきた豪雪地帯、上越の新しい挑戦

米どころ、新潟上越。豪雪地帯であるため、冬の間露地栽培ができず、米以外の農家の収入確保が長年の課題であった。その課題解決になると期待されているのが、雪下野菜だ。冬の農作業を阻んできた雪が他にないおいしさの野菜を育むことに注目が集まり、いま、上越の農業に活気をもたらしている。

助成対象事業の
評価ポイント

このプロジェクトは、米中心であった地域において、農協が地域をまとめながら「農家の(農産物)多角化経営」を進めるものです。
地域特産の雪下野菜に焦点をあてて、ブランド化を進めることで農家の手取りを増やしていく取組みです。"創意工夫"や"独自性"が認められ、かつ地域の実状を丁寧に汲みながら課題の解決にチャレンジしていると認められ、後押しすることにしました。

雪が野菜の味を変える雪下野菜

雪が野菜の味を変える雪下野菜 イメージ

畑の中を進む小型の除雪機が勢いよく雪を飛ばすと、黒い土が顔を見せた。生産者の渡邊岩夫さんが土をていねいに掘っていくと、泥にまみれた大根が表れる。傍らの雪で泥を洗い落とすと、大根の白さが美しく光った。 「雪の下に引き抜かずに置いていることで、大根の雑味が抜けて甘味が増すんですよ」その場で大根を切ってもらい、一口食べてみると、辛みは一切なく、みずみずしい甘さが口いっぱいに広がる。

この大根は9月上旬に播種をし、引き抜かずに、雪の季節を迎え、必要に応じて雪の下から収穫をしているのだという。こうした栽培法の野菜は、雪の下にあることで雪下野菜と呼ばれている。渡邊さんの大根は、「雪下畑の仲間たち(キャベツ・にんじん・白菜・ネギ・大根の雪下野菜をJAが商標登録)」のブランドで、JAえちご上越が運営する直売所「旬菜交流館 あるるん畑」(以下「あるるん畑」)に並べられる。

兼業農家の渡邊さんは、元々、自身で栽培した唐辛子を使った調味料、辛味子を製造・販売していた。それが、当時あるるん畑のマネージャーであったJAえちご上越営農生活部園芸畜産課課長の岩崎健二さんから「雪下野菜が直売所で人気なんですよ。作ってみませんか?」と、声をかけられたことをきっかけに雪下野菜の栽培を始めた。

最初の年は畑の空いたスペースに100本程度を栽培していただけだったが、耕作放棄地だった場所を借りて耕しながら、徐々に栽培面積を増やしていった。5年目となった今年は20aの畑で大根と人参を栽培し、大根だけでも約1万本を収穫する予定だ。冬の間は、ほぼ毎日、雪下野菜を収穫しては井戸水できれいに洗い、あるるん畑に並べることに追われる。「もっと増やしてくれと言われているんですけど、さすがに手一杯で......」渡邊さんはそう苦笑いをした。

雪が地域の農業を活気づける!

雪が地域の農業を活気づける! イメージ

雪下野菜は、雪国では冬の自然環境を活用したごく当たり前の野菜の保存法だ。どこの家庭でも雪の下に野菜を保管し、必要に応じて取りだして使っているという。それが商品になると、岩崎さんが気づかされたのは、キャベツを買っていったお客さんが言い残したこんな一言だった。「ここの直売所で買ったキャベツは他のスーパーで買ったものより甘くておいしいわね」見ると、それは、生産者が「直売所に出荷できるものが何にもないから、雪の下から掘ってきたよ」と言って並べたキャベツだった。

そんなに味が違うのだろうかと、食べ比べてみると、確かに甘い。キャベツ特有の雑味がなく、まるで果物を食べているような食感が新鮮だった。「これは売れる可能性を秘めているかもしれないと閃きました。豪雪地帯だから、冬の農業ができないことが悩みでしたが、その雪にビジネスチャンスの芽があるかもしれないことに気づかされたのです」岩崎さんはそう話す。

新潟県は、全国有数の米どころとして知られる。中でも上越は、米の栽培が最も盛んな水田単作地域の1つだ。冬に数メートルも降り積もる豪雪の雪解け水が水田をうるおし、食味の良い米を作り上げてきた。しかし、その分、田畑が雪に埋まる冬には農作業ができないため、野菜などの園芸作物の栽培がしにくく、特に冬場の農家が収入を得る作物がないことが大きな課題だった。

あるるん畑も2006年のオープン当初から、冬場の品揃えが課題の1つだったため、雪下野菜を冬の直売所を変えるきっかけにできないだろうか。豪雪地帯の冬の農業を阻んできた雪が、新たなお金を生むことができるかもしれない。岩崎さんはそう考えたのだ。

さっそく、あるるん畑の出荷会員に声をかけ、仲間づくりを始め、2007年から雪下野菜の取り組みを始めた。品目は大根、人参、キャベツ、白菜、ネギの5つ。最初は25名で生産していたが、人気が高まり、年を追うごとに新たな生産者が増え、現在は60名を超えている。

2012年には「雪下畑の仲間たち」で登録商標が認められ、あるるん畑の人気商品として定着させることができた。当初、130万円だった雪下野菜の生産額が、現在では1000万円を超えている。それによって渡邊さんのように、耕作放棄地となっていた畑を耕して、栽培面積を広げた生産者も増えてきた。雪下野菜は農業の担い手を育成し、耕作放棄地の有効利用を実現しながら、地域の農業を活気づけるために一役買う存在となっているのだ。

雪下野菜のファンを拡大し、農業の未来につなげたい

雪下野菜のファンを拡大し、農業の未来につなげたい イメージ

JAえちご上越では、農林水産業みらい基金を活用して、あるるん畑に隣接し農産加工所とレストランを建設し、雪下野菜の消費拡大と生産力を向上させる計画だ。雪下野菜の生産に有効な雪室の研究も行いながら、地産地消を推奨していく。また、現在、雪下BOXや雪下畑の名称でクール便を利用した雪下野菜の通信販売に取り組んでいるが、今後は関東圏の市場も狙いたいという。こうした取り組みによって、上越地区の大きな課題だった冬の園芸作物の栽培を根付かせ、農家の収入源の確保を目指す。

「直売所に農産加工所とレストランを併設することで販売力を強化し、食と農のテーマパークを作りたいと思うのです。雪下野菜のファンを拡大させながら、地域の農業を活性化させ、農業の未来につなげていきたいと思っています。」と、岩崎さんは、今後の展望を話してくれた。

持続可能な農業というと壮大な響きがある。しかし、日本の農業を守り未来につなげるためには、地域の農業をどう守るか、さらには生産者がどう農業を維持させていけるか、足下から変わっていくことがとても重要になる。個々の生産者が農業を継続できない限り、農業の未来は明るいとは言い難いだろう。上越地区の生産者の冬を変えた雪下野菜。冬の農業を阻んでいた豪雪地帯の雪が、上越の農業を活気づけながら、持続可能な姿へ変えていこうとしている。

助成先の組織概要

えちご上越農業協同組合

2001年広域合併し、上越市、妙高市の2市をエリアとする
正准組合員41,377名(2015年2月末現在)
管内経営耕作地16,871ha
管内は基幹の水稲と大豆、野菜及び畜産を生産する水田単作地帯

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